
付加年金とは?仕組み・制度・受給額・メリットデメリットをわかりやすく解説【2025年版】
難易度:
執筆者:
公開:
2025.08.02
更新:
2025.08.02
2025年は5年に一度の年金制度改正年。月400円で加入できる「付加年金」は高利回りながら物価スライド非適用という特殊性から、見直し論点として注目されています。さらに2024年3月からマイナポータル経由で電子申請が可能となり、手続きがスマホで完結する時代へ。本記事では、受給開始後わずか2年で元本回収できる収支構造を軸に、メリット・デメリット、他制度との比較、最新動向までを立体的に解説します。
サクッとわかる!簡単要約
付加年金は国民年金第1号被保険者限定の上乗せ制度です。追加保険料は月400円だけで「200円×納付月数」の年金が終身で増え、65歳受給開始なら約2年で支払総額を回収できる高利回り設計。記事では回収分岐点シミュレーション、社会保険料控除による節税効果、国民年金基金・iDeCoとの併用戦略、物価リスクと改正動向まで具体例を交えて整理。読み終える頃には、自分の老後資金計画に付加年金をどう組み込むかがクリアになります。
目次
付加年金制度の概要
制度創設の背景と社会的課題
付加年金は、国民年金第1号被保険者だけが任意で加入できる公的年金の上乗せ制度です。1970年10月に制度が創設され、当時は付加保険料月額350円でスタートしました。
創設の背景には、自営業者など第1号被保険者の年金が基礎年金のみで手薄なことや、富裕層からの「もっと年金を増額できる仕組みが欲しい」という要望がありました。
また、国民皆年金が始まった1960年代、国民年金保険料の未納・免除者が多く制度維持が課題だったため、「保険料を払えば高利回りの付加年金を利用できる」という宣伝目的もあったとされています。
実際、付加年金開始当初は付加保険料月350円を40年間納めると、基礎年金と同額の年金額(年額9万6,000円)を追加給付できる設計で、制度立ち上げ時の社会的ニーズに応えるものでした。
国民年金との関係と位置づけ
付加年金は国民年金(老齢基礎年金)の上乗せ給付として位置づけられます。日本年金機構によれば、毎月400円の付加保険料を納付すると、将来受け取る老齢基礎年金に「200円×納付月数」の付加年金額が加算される仕組みです。
加入対象は国民年金第1号被保険者(自営業者・フリーランス・学生・無職など)および任意加入被保険者のみであり、会社員・公務員など第2号被保険者やその被扶養配偶者(第3号被保険者)は利用できません。
位置づけとしては、厚生年金など2階建て年金がない第1号被保険者に対し、低コストで年金額を増やすことができる「ミニ年金の2階部分」と言えます。なお国民年金基金(第1号向けの年金積立制度)も老齢基礎年金の上乗せ制度ですが、付加年金と国民年金基金は法律上併用できない決まりで、どちらか一方を選ぶ必要があります。
保険料と年金額の計算ロジック
付加保険料(月400円)の仕組み
現在の付加保険料は月額400円に定められています。この400円は国民年金の定額保険料に上乗せして納める形となり、例えば令和7年度(2025年度)の国民年金保険料17,510円と合わせて月17,910円を支払うことで付加年金に加入できます。
付加保険料は低額に抑えられており誰でも加入しやすい反面、付加年金基金のように掛金額を自由に増額することはできず一律400円です。国民年金基金の1口目の給付には付加年金相当分が含まれており、重複加入は認められていません。
したがって、第1号被保険者はまず付加年金(月400円)で手軽に年金増額を図り、余裕が出れば国民年金基金やiDeCoで追加拠出するという使い分けが一般的です。
付加年金額(200円×納付月数)の算出例
日本年金機構の資料によると、付加年金として受け取れる年金額(年額)は「200円×納付月数」で計算されます。たとえば20歳から60歳までフル加入(480月納付)した場合、付加年金額は200円×480月=96,000円(年額)となり、老齢基礎年金に年9万6千円上乗せされます。
これは令和7年度時点の老齢基礎年金満額831,700円に加算され、年間927,700円の年金を受給できる計算です。また15年間(180月)納付したケースでは年額36,000円(月額3,000円)の付加年金、5年間(60月)納付なら年額12,000円(月額1,000円)の付加年金となります。支払った付加保険料に対する増額額は、生涯にわたり受け取れるため非常に高率で、後述するように2年受給すれば元本回収できる水準です。
受給開始年齢との収支分岐点
付加年金は老齢基礎年金の受給開始時から支給されます。65歳から受給を開始した場合、上述のとおり約2年間受給すれば、それまでに納めた付加保険料総額と同額の年金を受け取れる(元が取れる)計算です。
日本年金機構も「2年以上受け取ると納めた付加保険料以上の年金を受け取れます」と案内しています。繰上げ受給(60〜64歳で前倒し受給)を選択した場合、老齢基礎年金が減額されるのと同様に付加年金も繰上げ率に応じて減額されます。
例えば5年繰上げ(60歳から受給)では付加年金額も約30%減となりますが、その代わり5年間早く受給が始まるため、およそ3年程度受給すれば支払保険料を回収できる計算になります(60歳開始の場合、63歳頃に元本相当を受給)。
一方、繰下げ受給(66〜75歳に繰り下げ)の場合は付加年金も繰下げ加算率(1ヶ月あたり0.7%)で増額されます。例えば5年繰下げ(70歳開始)では付加年金額が42%増え、開始後約1年強で納付額相当を回収できる計算となります。
ただし繰上げ・繰下げは基礎年金全体の額や受給期間にも影響するため、付加年金単独では常に「受給開始から約2年で元が取れる」高利回り商品であることは変わりません。重要なのは長生きすればするほど受給総額が増え続ける点であり、受給開始年齢にかかわらず、生涯受け取る付加年金が支払った保険料を上回る可能性が極めて高い制度だと言えます。
付加年金のメリット
掛金に対する高いリターン(約2年で元が取れる)
付加年金最大のメリットは、その投資対効果の高さです。毎月400円という少額の掛金にもかかわらず、増加する年金額は「200円×納付月数」と非常に効率が良く、年金受給開始後わずか2年で支払った保険料の元本を回収できる計算になります。
例えば45歳から60歳まで15年間(180ヶ月)加入した場合、総支払保険料は72,000円ですが、65歳から年間36,000円の付加年金を受給できるため67歳頃までに全額回収できる見込みです。これは利回りに換算すると非常に高く、65歳から受給開始し80歳まで15年間受け取った場合、運用利回り約10.8%(年平均)に相当するとの試算もあります。
公的年金という元本保証かつ終身支給の商品で、これほど短期間で元が取れる制度は他になく、「長生きすればするほどおトク」な点が付加年金の魅力です。受給が2年未満で死亡してしまうと元本割れになりますが、そのリスクは後述のデメリットで触れます。
所得控除による税負担軽減効果
付加年金の保険料400円/月は、国民年金保険料と同様に全額が社会保険料控除の対象となります。そのため、加入者は支払った付加保険料の分だけ所得税・住民税の課税所得が圧縮され、わずかではありますが税負担の軽減効果を得られます。
例えば年間4,800円の付加保険料を納付すれば、その全額が所得控除となり、所得税率や住民税率にもよりますがおおむね数百円〜千円程度の税金が軽減されます(国民年金保険料と合算して控除)。
iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金のように小規模企業共済等掛金控除ではなく社会保険料控除になる点は注意が必要ですが、いずれにせよ節税メリットがあるのは見逃せません。なお、付加年金の年金受取額は他の年金と同じく雑所得として課税対象ですが、高齢期の公的年金等控除の範囲内であれば大半の方は実質非課税で受け取れるでしょう。
老後キャッシュフロー強化とインフレ耐性
付加年金に加入することで、老後の毎月の年金収入が増え、キャッシュフローにゆとりが生まれます。特に自営業者やフリーランスは厚生年金がなく基礎年金のみのため、付加年金で月額数千円でも年金が増える効果は生活保障上大きな意味があります。
また、付加年金は終身年金であるため長生きリスク(長寿化による貯蓄枯渇リスク)への耐性が高まります。公的年金なので支給額が途中で減額されたり破綻するリスクも極めて低く、生涯にわたり安定した現金収入源となる点は精神的な安心材料です。
インフレへの耐性については後述のように付加年金額自体は物価スライドされない定額ですが、老齢基礎年金部分は物価や賃金に応じて毎年改定されます。したがって、付加年金に加入することで物価上昇時にも基礎年金部分の実質目減りをある程度カバーできる(総年金額ベースでは一定の購買力を維持しやすい)と考えることもできます。総合的に、付加年金は老後のキャッシュフローを底上げし、長生きや経済変動に備える公的保障として有用です。
デメリットと留意点
免除・未納期間がある場合の回収リスク
付加年金は加入が任意であり、保険料納付についても途中で辞退(やめる)することが可能です。しかし、納付しなかった期間(免除・未納期間)は当然付加年金額が増えませんし、加入期間が短いと受給額も少額になるため効果が限定的です。また何よりのリスクは、受給開始前あるいは受給後まもなく死亡した場合です。
付加年金は加入者本人が老齢基礎年金とともに受け取る年金であり、受給開始前に亡くなっても納付した付加保険料は遺族に返還されません(※遺族基礎年金や死亡一時金には付加年金分は反映されません)。さらに65歳から受給を開始しても、2年以内に亡くなると支払った保険料総額を回収できず損をすることになります。
例えば65歳で年金受給開始後、67歳以前に亡くなった場合は元が取れないまま終了となります。したがって、健康状態が思わしくなく長生きできないリスクが高い方や、長期間にわたり免除・未納があり実質的な加入月数が少ない方は、付加年金加入によるメリットが薄まる可能性があります。もっとも、2年以上生存すればすぐ元本超過になるメリットは他の年金制度より圧倒的であり、平均余命まで生存する前提では過度に心配する必要はないでしょう。
物価スライド非適用による実質価値減少
付加年金の給付額は定額(加入月数×200円)で固定されており、物価や賃金の変動に連動したスライド調整が行われません。
このため、インフレーションが進行すると付加年金の実質的な購買力が徐々に目減りする点に注意が必要です。実際、1973年以降、公的年金には物価スライド制が導入され基礎年金額が何倍にも増額されてきましたが、付加年金額は1970年創設当時と同じ計算式のまま据え置かれています。
例えば昭和40年代に付加年金満額(年9万6千円)だったものが、令和時代では基礎年金年額77万円に対し付加年金満額9万6千円と比率が大きく低下しています。物価下落局面では逆に減額されない利点とも言えますが、長期的には緩やかなインフレで年金の実質価値が目減りしていく可能性が高いです。
政府内でも付加年金への物価スライド適用については明確な議論が進んでおらず、2025年の年金制度改正でも特に付加年金額の見直しは予定されていません(執筆時点)。
したがって、付加年金は将来の物価上昇による実質目減りリスクを理解した上で加入する必要があります。補完策として、付加年金で増やせる額(月額上限3,000円程度)は限られるため、別途インフレに強い資産運用(iDeCoでの運用や物価連動資産の保有など)も組み合わせると安心でしょう。
国民年金繰上げ受給時の減額影響
前述の通り、老齢基礎年金を繰上げ受給すると付加年金も同じ率で減額されます。繰上げ受給は1ヶ月あたり(従来は0.5%、現在は0.4%)年金が減額される制度で、最大5年(60歳から)前倒しできます。
その場合、付加年金も例えば60歳から受給なら本来額の約70%に減額されます。減額された付加年金でも2〜3年の受給で元は取れますが、受給できる月額自体が少なくなる点には留意しましょう。
特に繰上げ受給をすると付加年金のメリットである「繰下げによる増額」が享受できなくなるため、生涯受給総額では繰上げない場合より少なくなります。また繰上げ受給を選択すると付加年金を後から任意加入することもできなくなる可能性があります(繰上げ開始時に第1号被保険者資格を失うため)。
反対に、繰下げ受給を選択した場合は付加年金も同率で増額されるため、繰下げとの相性は良い制度です。総じて、付加年金の恩恵を最大化するには可能な限り65歳以降まで年金を繰下げ受給し、満額(または増額率適用後)で受け取るのが望ましいと言えるでしょう。一方で早期退職等で生活資金が必要な場合は繰上げも選択肢になりますが、その際付加年金額も減る点を認識して判断する必要があります。
加入資格と加入方法
対象者(第1号被保険者)の要件
付加年金に加入できるのは国民年金第1号被保険者および国民年金の任意加入被保険者(※65歳以上を除く)です。具体的には、自営業者・フリーランス・農業漁業従事者・学生・無職の方などで、自ら国民年金保険料を納めている人が対象となります。
第2号被保険者(厚生年金加入の会社員・公務員)や第3号被保険者(第2号被保険者に扶養されている配偶者)は付加年金に加入できません。また国民年金保険料の免除や納付猶予を受けている期間中の人も、その間は付加保険料を納めることができません。
さらに重要な点として、国民年金基金の加入者は付加年金へ加入できない(付加保険料を納められない)と法律で定められています。国民年金基金の1口目の給付に付加年金相当分が含まれているため、二重加入を避ける仕組みです。
以上まとめると、第1号被保険者であり、国民年金基金未加入かつ保険料免除中でないことが付加年金加入の基本要件となります。なお、第1号被保険者であれば年齢要件は20歳以上60歳未満ですが、60歳以降も任意加入で国民年金に入っている場合は65歳未満まで付加年金に加入可能です。
市区町村窓口での申込手順と必要書類
付加年金への加入手続きはお住まいの市区町村役場の国民年金担当窓口または年金事務所で行います。具体的には、「付加保険料納付申出書」という加入申込書に必要事項を記入し提出します。
日本年金機構の案内によれば、窓口に行く際は年金手帳(基礎年金番号のわかる書類)を持参するよう求められています。手続き自体は難しいものではなく、窓口で「付加年金に加入したい」旨を伝えれば所定の申出書に記入でき、提出後当月から付加保険料の納付が可能です。付加年金の加入は申し出を行った月分から有効となり、過去に遡って加入すること(さかのぼり加入)はできません。
したがって、思い立ったら早めに手続きするのが得策です。
必要書類は基本的に以下の通りです。
- 年金手帳(基礎年金番号通知書)またはマイナンバーカード等、基礎年金番号が確認できる書類
- 本人確認書類(運転免許証・マイナンバーカード等)
- 印鑑(必要な場合)
市区町村によって多少異なる場合がありますが、通常は上記で十分です。国民年金保険料を前納している場合でも付加年金への加入手続きは可能で、その場合後日付加保険料分の納付書が送付される運用となります。
一方、口座振替(またはクレジットカード払い)で国民年金を納付中の場合は、申出後1~2ヶ月分は一時的に付加保険料のみ納付書払いとなるケースがありますが、その後は付加保険料込みの額が自動引き落としされるようになります。不明な点は年金事務所や市区町村窓口で確認するとよいでしょう。
免除・猶予期間終了後の再加入フロー
一度付加年金に加入した後、国民年金保険料の免除や納付猶予を受ける期間に入った場合、その期間中は付加保険料が納められないため付加年金は自動的にストップします。
免除・猶予期間が終わり通常保険料の納付を再開する際に、付加年金も引き続き継続したい場合は改めて付加保険料納付の申出手続きを行う必要があります(以前の申出は失効しているため)。
具体的には、免除期間明けに市区町村窓口か年金事務所で再度「付加年金納付再開の申出」をしてください。手続きは初回加入時と同様で、年金手帳等を持参して申し出ます。付加年金をやめたい場合(任意脱退したい場合)も、「付加保険料納付辞退申出書」を提出すれば翌月以降は課されなくなります。
なお、国民年金基金に加入した場合はその時点で付加年金に納付できなくなるため、基金加入後に付加年金を継続したいと思っても法律上できません。国民年金基金から脱退した場合でも原則付加年金には戻れないため注意が必要です。免除期間明けやライフステージの変化で再び付加年金を利用したい場合は、その都度手続きを行えば何度でも加入・脱退が可能です。
柔軟に利用できる反面、手続きを忘れると未加入のまま放置される恐れがあるので、自身の加入状況はねんきん定期便やねんきんネット等で確認しておきましょう。
シミュレーションで見る費用対効果
自営業者(30歳加入)モデルケース
では具体的に、付加年金の費用対効果をモデルケースで見てみましょう。30歳・自営業者が付加年金に加入し、60歳まで30年間(360ヶ月)付加保険料を納め続けたケースを想定します。
この場合、総支払付加保険料額は400円×360月=144,000円です。一方、65歳から老齢基礎年金とともに付加年金を受け取ると、年額72,000円(月額6,000円)の付加年金を生涯受給できます。
受給開始から2年(66歳末〜67歳頃)で累計受取額が144,000円に達し、支払った保険料を回収します。その後は長生きすればするほどリターンが拡大します。例えば85歳まで20年間生存すると、付加年金受取総額は72,000円×20年=1,440,000円にのぼり、支払額144,000円の10倍を超える給付を受け取れる計算です。
フリーランス(45歳途中加入)モデルケース
次に45歳・フリーランスの方が途中から付加年金に加入し、60歳までの15年間(180ヶ月)納付したケースです。総支払額は400円×180月=72,000円となります。この方は基礎年金についてはそれまでの加入期間にも依存しますが、付加年金としては65歳以降、年額36,000円(月額3,000円)を受け取ることができます。
受給開始後ちょうど2年(67歳頃)で累計受給額が72,000円に達し元本回収となります。以降は生存年数に応じて利益が拡大し、例えば85歳まで受給すると36,000円×20年=720,000円を受け取れ、支払額の10倍の給付を享受する計算です。
30歳加入ケースと比べると年間受取額は半分ですが、支払額も半分なので費用対効果(2年で元が取れる点)は同じです。途中加入でも加入期間さえ確保すれば十分なリターンが得られることが分かります。
他制度との比較と組み合わせ戦略
国民年金基金との費用対効果比較
国民年金基金は、第1号被保険者向けに設計されたもう一つの公的年金上乗せ制度です。付加年金と異なり掛金月額や年金種類を自分で選択可能で、月額最大68,000円(付加年金・iDeCoとの合算上限)まで掛金を拠出できます。
したがって、老後に備えて大きく年金額を増やしたい人や事業収入が安定しており高額の掛金を拠出できる人に向いています。費用対効果の面では、付加年金が「400円→将来200円/月の終身年金」という驚異的な利回りであるのに対し、国民年金基金は年齢・性別・型により異なりますが概ね利回り1~3%程度の長期積立と考えられます。
例えば、45歳男性が終身年金A型(保証期間あり)に60歳まで1口加入すると、月額17,685円の掛金に対し、将来月額15,000円の年金(年間18万円)を受け取れるイメージです。このケースでは約18年で元本相当を受給する計算で、付加年金(2年で元が取れる)とはリターン水準が大きく異なります。
しかし基金の利点は掛金を高額に設定できるため将来受給額を大幅に増やせることにあります。付加年金は満額でも年9.6万円増が上限ですが、基金なら掛金次第で年金を数十万円単位で上乗せできます。また国民年金基金の掛金も全額が社会保険料控除となり、所得税・住民税の節税効果が高額掛金ほど大きくなります。
デメリットは原則として途中脱退や一部解約ができず流動性が低いこと、及び将来給付が物価スライドしない固定額である点は付加年金と同様です。法律上、付加年金と基金は併用できないため(基金加入中は付加保険料を納付不可)、まず付加年金に加入してから収入増加に応じて基金へ移行する方法が推奨されます。
実際、付加年金は負担が軽いので先に利用し、その後基金に切り替える人もいますが、一度基金に加入すると付加年金には戻れないため慎重に検討しましょう。
iDeCoとの税制・流動性比較
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、老後資金作りのための任意加入型の私的年金制度です。付加年金や国民年金基金と併用可能(ただし上限額は合算で月68,000円)であり、第1号被保険者の場合は付加年金加入時はiDeCo掛金上限が月67,000円になる(400円分差し引かれる)点に注意が必要です。
iDeCoの最大の特徴は掛金全額が小規模企業共済等掛金控除として所得控除になることに加え、運用益も非課税、さらに受取時も一定額まで非課税枠があるというトリプル税制優遇にあります。したがって、節税効果という点では付加年金よりもiDeCoの方が大きなメリットがあります(掛金額にもよりますが、例えば年間68万円拠出で所得税住民税計約27万円軽減)。
一方で流動性の違いも明確です。付加年金は公的年金の一部なので途中解約という概念はなく、やめればそれまでの納付分に応じて将来給付があるだけです。
iDeCoは60歳まで原則引き出し不可で、運用次第で元本割れリスクもあります。ただし運用商品の選択によってインフレに対応した資産形成ができる可能性があり、付加年金のように給付額固定ではない分、高いリターンも狙えますが元本保証ではないというトレードオフです。
付加年金は確実に高利回り(2年で元本回収)が約束された公的制度、iDeCoは自己運用で成果が変わる私的年金と位置づけられます。どちらも老後資金準備には有用なので、まず付加年金で確実な土台を作り、その上で余裕資金をiDeCoで運用してリスク分散と節税を図るという組み合わせが考えられます。
なおiDeCoは途中で掛金額変更や一時停止も可能で柔軟性がありますが、付加年金は400円固定というシンプルさゆえに調整はできません。総じて、手堅さでは付加年金、節税と運用妙味ではiDeCoと押さえておくと良いでしょう。
iDeCoの節税メリットについてはこちらのQ&Aもご参照ください。
iDeCoのデメリットとその対策は以下の記事で詳しく解説しています。
3制度併用による最適ポートフォリオ
第1号被保険者が利用できる年金上乗せ制度である付加年金・国民年金基金・iDeCoの3つは、それぞれ特徴が異なるため上手に組み合わせることで最適な老後資産ポートフォリオを構築できます。
ただし前述のように付加年金と基金は同時加入できないため、「3制度併用」といっても一生の中で段階的に使い分けるイメージになります。例えば、若いうちは付加年金(月400円)+iDeCo(余裕資金を運用)でスタートし、中年期以降事業収入が増えて節税ニーズが高まれば国民年金基金に加入して大きく年金額を積み増す、といった戦略が考えられます。
「まず付加年金で手軽に年金増額を図り、後に所得が増えて拠出余力ができた段階で国民年金基金に移行する方法」がオススメです。
国民年金基金については、以下の記事で詳しく解説しています。
この際一度基金に加入すると原則脱退できず付加年金には戻れないため、加入時期や掛金設定は慎重に検討しましょう。またiDeCoは付加年金とも基金とも併用可能ですが、付加年金加入中はiDeCo掛金上限が月67,000円になる点(付加400円分)や、基金加入中は基金掛金とiDeCo掛金の合計で68,000円までという上限に留意が必要です。
総合的には、確実性重視なら付加年金、積立額を増やしたいなら基金、資産運用と節税をしたいならiDeCoという位置づけなので、自身の収入状況や老後資金計画に応じて組み合わせるのがベストです。
例えば、高齢まで働く予定で余裕資金があり税金も多く払っている方は付加年金+iDeCoフル活用+可能なら基金も加入して老後年金を最大化すると良いでしょう。一方、収入が不安定で掛金負担を最小限にしたい方は付加年金のみ加入し、余力があれば少額でもiDeCoで運用するといった選択肢があります。3制度を理解し、自分に合ったポートフォリオを組むことが重要です。
2025年改正・最新動向
物価スライド導入議論の行方
2025年は5年に一度の公的年金制度改革の議論が行われる年であり、物価高騰への対応策などが注目されています。しかし付加年金に関しては、現時点で物価スライド制を導入する改正案や議論は公的には確認されていません。
前述したように付加年金額は創設以来固定の計算式で、物価スライドの対象外となっています。専門家からは「高利回りだが物価に連動しない付加年金の将来価値低下」を指摘する声もあり、本来であれば物価スライドを適用するか、あるいは付加年金額そのものを増額する議論があっても良いところです。
しかし厚生労働省の年金部会など公的な場で付加年金について大きな議題となった様子はなく、2024年公表の財政検証や2025年法改正論点に付加年金の項目は見当たりません。背景には、付加年金加入者の数自体がそれほど多くなく制度影響が限定的なことや、高利回りゆえに下手に増額すると年金財政に与えるインパクトが大きいことがあると推測されます。
ただ、物価高が続けば定額の付加年金だけ実質目減りが進む不公平感も出かねません。今後、有識者や国民から改善要望が高まれば、付加年金額に対する物価スライド導入や掛金額・給付額見直しが議論される可能性はあります。2025年時点では動きはありませんが、引き続き最新動向を注視する必要があるでしょう。
オンライン申請・キャッシュレス納付の進展
デジタル化の流れを受け、付加年金の加入手続きや保険料納付方法にも利便性向上の波が来ています。2024年3月から日本年金機構は付加保険料納付申出書等の電子申請(オンライン申請)サービスを開始しました。
マイナポータルを通じて24時間いつでもインターネット上で付加年金の加入申請や脱退申出が可能となり、従来必要だった紙の届出を郵送・窓口提出する手間が省けます。既に東京都渋谷区など各自治体でも「マイナポータルから国民年金付加保険料の申請ができます」と案内を出しており、スマホやPCからワンクリックで付加年金の手続きが完結する環境が整いつつあります。
また、保険料のキャッシュレス納付も進展しています。付加保険料はもともと口座振替(自動引落)やクレジットカード払いに対応しており、納付書を使わずキャッシュレスで支払えます。2024年からは年度途中でも口座振替前納に切り替えできるよう制度改善されるなど、より柔軟で便利な納付が可能になりました。
さらにコンビニ払い等も電子決済アプリの普及により、スマホでバーコードを読み取って納付するといったケースも増えています。総じて、2025年現在、付加年金の手続き・納付はオンライン化・キャッシュレス化が進み、加入者の利便性は格段に向上しました。今後もマイナポータルの利用促進やキャッシュレス決済の拡充により、一層使いやすい制度となっていくでしょう。付加年金に関心のある方は、これら最新の手続き方法も活用しつつ、賢く制度を利用してみてください。
この記事のまとめ
付加年金は「低負担・高リターン」の公的年金上乗せ策で、2年以上の受給が見込めるなら加入メリットは極めて大きい制度です。一方、物価スライドがなく国民年金基金と併用できないなど制約も存在するため、iDeCoや分散投資と組み合わせた長期プラン設計が不可欠。オンライン申請の普及で手続きは容易になった今こそ、納付状況を確認し、必要なら専門家へ相談して最適な老後ポートフォリオを描きましょう。

MONO Investment
投資のコンシェルジュ編集部は、投資銀行やアセットマネジメント会社の出身者、税理士など「金融のプロフェッショナル」が執筆・監修しています。 販売会社とは利害関係がないため、主に個人の資産運用に必要な情報を、正確にわかりやすく、中立性をもってコンテンツを作成しています。
投資のコンシェルジュ編集部は、投資銀行やアセットマネジメント会社の出身者、税理士など「金融のプロフェッショナル」が執筆・監修しています。 販売会社とは利害関係がないため、主に個人の資産運用に必要な情報を、正確にわかりやすく、中立性をもってコンテンツを作成しています。
関連する専門用語
付加年金
付加年金とは、国民年金に加入している人が、定額の保険料(月額400円)を上乗せして納めることで、将来の年金額を増やせる制度です。自営業者やフリーランスなどの第1号被保険者が対象で、支払った付加保険料に応じて、老齢基礎年金に上乗せして受け取ることができます。 受け取り額は、付加保険料を納めた月数に200円をかけた金額が年金に加算される仕組みで、長生きするほどお得になるとされています。特に、iDeCoなどの他の自助努力型制度と併用することで、老後の年金対策に柔軟性を持たせることができます。資産運用の観点からは、少ない負担で将来の収入を増やす手段として、非常に効率的な選択肢の一つです。
第1号被保険者
第1号被保険者とは、日本の公的年金制度において、20歳以上60歳未満の自営業者や農業従事者、フリーランス、無職の人などが該当する国民年金の加入者区分のひとつです。会社員や公務員などのように厚生年金に加入していない人が対象で、自分で国民年金保険料を納める義務があります。 保険料は定額で、収入にかかわらず同じ金額が設定されていますが、経済的に困難な場合には免除制度や納付猶予制度を利用できることがあります。将来の年金受給の基礎となる制度であり、自分でしっかりと手続きや納付を行う必要があります。公的年金制度の中でも、自主的な加入と負担が特徴の区分です。
老齢基礎年金
老齢基礎年金とは、日本の公的年金制度の一つで、老後の最低限の生活を支えることを目的とした年金です。一定の加入期間を満たした人が、原則として65歳から受給できます。 受給資格を得るためには、国民年金の保険料納付済期間、免除期間、合算対象期間(カラ期間)を合計して10年以上の加入期間が必要です。年金額は、20歳から60歳までの40年間(480月)にわたる国民年金の加入期間に応じて決まり、満額受給には480月分の保険料納付が必要です。納付期間が不足すると、その分減額されます。 また、年金額は毎年の物価や賃金水準に応じて見直しされます。繰上げ受給(60~64歳)を選択すると減額され、繰下げ受給(66~75歳)を選択すると増額される仕組みになっています。 老齢基礎年金は、自営業者、フリーランス、会社員、公務員を問わず、日本国内に住むすべての人が加入する仕組みとなっており、老後の基本的な生活を支える重要な制度の一つです。
付加保険料
付加保険料とは、国民年金に加入している人が、定額保険料に加えて自分の意思で追加で支払うことができる保険料のことです。この制度を利用することで、将来受け取る年金額を増やすことができます。具体的には、月々400円(2025年時点)を上乗せして支払うことで、老齢基礎年金に付加年金が加算される仕組みです。 付加年金として、200円×納付月数の金額が一生涯受け取れるため、長生きすればするほど得になる仕組みといえます。ただし、この制度は自営業者や無職の人など、国民年金第1号被保険者が対象で、会社員や公務員など厚生年金に加入している人は利用できません。年金を少しでも増やしたいと考えている人にとって、手軽に始められる方法の一つです。
国民年金基金
国民年金基金とは、自営業者やフリーランスなどの国民年金第1号被保険者が、将来の年金額を上乗せするために任意で加入できる制度です。これは、国民年金(基礎年金)だけでは老後の生活費として不十分な場合に備えて、公的に用意された追加の年金制度です。加入者は自分の希望に合わせて受け取る年金の型や金額を選ぶことができ、掛金もそれに応じて決まります。終身で年金を受け取れる選択肢もあるため、長生きリスクへの備えとして有効です。また、支払った掛金は全額が所得控除の対象となるため、節税効果も得られます。資産運用の視点では、自分で備える年金制度の一つとして、iDeCoなどと並んで重要な選択肢となります。
iDeCo(イデコ/個人型確定拠出年金)
iDeCo(イデコ)とは、個人型確定拠出年金の愛称で、老後の資金を作るための私的年金制度です。20歳以上65歳未満の人が加入でき、掛け金は65歳まで拠出可能。60歳まで原則引き出せません。 加入者は毎月の掛け金を決めて積み立て、選んだ金融商品で長期運用し、60歳以降に年金または一時金として受け取ります。加入には金融機関選択、口座開設、申込書類提出などの手続きが必要です。 投資信託や定期預金、生命保険などの金融商品で運用し、税制優遇を受けられます。積立時は掛金が全額所得控除の対象となり、運用時は運用益が非課税、受取時も一定額が非課税になるなどのメリットがあります。 一方で、証券口座と異なり各種手数料がかかること、途中引き出しが原則できない、というデメリットもあります。
社会保険料控除
社会保険料控除とは、健康保険、厚生年金、介護保険、雇用保険などの社会保険料を支払った場合に、その金額を所得から差し引くことができる所得控除の一種です。これは、納税者の生活を守る公的制度に協力しているという前提で、税負担を軽くするための仕組みです。 本人が支払った分だけでなく、配偶者や親族の保険料を本人が負担している場合にも控除の対象になります。会社員であれば給与から自動的に天引きされた社会保険料も対象となっており、年末調整や確定申告の際に自動的に反映されるケースが多いです。税額を計算する際の重要な調整要素となるため、税制の基本知識として知っておくと役立ちます。
所得控除
所得控除とは、個人の所得にかかる税金を計算する際に、特定の支出や条件に基づいて課税対象となる所得額を減らす仕組みである。日本では、医療費控除や生命保険料控除、扶養控除などがあり、納税者の生活状況に応じて税負担を軽減する役割を果たす。これにより、所得が同じでも控除を活用することで実際の税額が変わることがある。控除額が大きいほど課税所得が減少し、納税者の手取り額が増えるため、適切な活用が重要である。
繰上げ受給
繰上げ受給とは、公的年金を本来の支給開始年齢より早く受け取り始める制度で、日本では原則65歳からの老齢基礎年金や老齢厚生年金を60歳から前倒しで請求できます。早く受け取る代わりに、受給額は繰上げた月数に応じて永久的に減額される仕組みになっており、減額率は請求月ごとに定められています。長く受給するメリットと生涯受取額が減るデメリットを比較し、健康状態や生活資金の必要度、就労の予定などを踏まえて選択することが大切です。また、一度繰上げを行うと原則として取り消しや遅らせることはできないため、将来のライフプランを十分検討したうえで判断する必要があります。
繰下げ受給
繰下げ受給とは、本来65歳から支給される公的年金(老齢基礎年金や老齢厚生年金など)の受け取り開始を自分の希望で後ろ倒しにする制度です。66歳以降、最大75歳まで1か月単位で繰り下げることができ、遅らせた月数に応じて年金額が恒久的に増えます。 増額率は1か月当たり0.7%で、10年(120か月)繰り下げた場合にはおよそ84%の上乗せとなるため、長生きするほどトータルの受取額が増えやすい仕組みです。ただし、繰下げた期間中は年金を受け取れないため、その間の生活資金や健康状態、就労収入の見通しを踏まえて慎重に検討することが大切です。
物価スライド
物価スライドとは、年金や保険、給与などの金額を、物価の変動に合わせて自動的に調整する仕組みのことです。たとえば、物の値段が上がると、その影響で生活費も上がります。物価スライドが導入されている制度では、こうした物価上昇に応じて支給額が増えることで、受け取る人の実質的な生活水準が保たれるようになっています。 反対に物価が下がったときには、支給額が減ることもありますが、日本の公的年金では一定の下限があるため、大きく下がることはまれです。物価の変動に敏感な制度設計により、インフレやデフレの影響を和らげる目的で使われる仕組みです。
終身年金
終身年金とは、一度受給が始まると、契約者が生きている限り年金が支給され続けるタイプの年金です。主に民間の年金保険や国民年金基金、企業年金などで採用される形式で、老後の長生きリスクに備えるための仕組みとして重視されています。たとえば、90歳まで生きた場合でも、支給は一生涯続くため、資金が尽きる心配が少なくなります。支給額は契約時に決められており、途中で変更されることは通常ありません。 資産運用の視点からは、定期的な安定収入を確保する手段として終身年金は非常に有効であり、特に退職後の生活費の柱として設計する際に重宝されます。ただし、早期に亡くなった場合は支払った保険料よりも受け取る年金総額が少なくなることもあるため、遺族保障とのバランスも検討が必要です。
マイナポータル
マイナポータルとは、政府が運営するオンラインサービスで、マイナンバーカードを使って自分の行政手続きや個人情報を一元的に確認・管理できるシステムです。たとえば、どの役所がどのような情報を閲覧したかの履歴確認、子育てや年金、税金、医療などの手続き状況の確認・申請、さらには民間サービスとの連携(たとえば保険や金融)にも対応しています。 利用者は自宅のパソコンやスマートフォンからアクセスでき、行政手続きを簡略化したり、書類の提出を省略できたりするなどのメリットがあります。特に確定申告や公金受取口座の登録、給付金申請などに活用される機会が増えており、デジタル社会における個人と行政をつなぐ基盤的なサービスと位置づけられています。
元本
元本とは、投資や預金を始めるときに最初に出すお金、つまり「もともとのお金」のことを指します。たとえば、投資信託に10万円を入れた場合、その10万円が元本になります。 運用によって利益が出れば、元本に運用益が加わって資産は増えますが、損失が出れば元本を下回る「元本割れ」の状態になることもあります。 元本が保証されている商品(例:定期預金、個人向け国債など)もありますが、多くの投資商品では元本保証がないため、どれくらいのリスクを取るかを理解しておくことが大切です。