相続時の借金について時効の援用をした場合、なにかデメリットは発生しますか?
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2025/08/09 08:19
男性
60代
相続した遺産の中に借金があると知りました。調べたところ時効が成立している可能性があるので、時効の援用を検討していますが、援用することで相続人として何か不利になったり、将来影響が出たりすることはありますか?デメリットがあるなら事前に知っておきたいです。
回答
株式会社MONOINVESTMENT / 投資のコンシェルジュ編集長
相続した遺産に借金が含まれており、それがすでに時効を迎えている可能性がある場合、相続人は「時効の援用」によってその借金の返済義務を消滅させることができます。ただし、この手続きにはいくつかの注意点とデメリットも存在します。
まず、援用するためには「時効がすでに完成していること」が条件です。債権の種類によって時効期間は異なりますが、通常は最終返済日や債権者からの最後の請求から5年または10年が経過している必要があります。2020年の民法改正以降は、「権利行使が可能となった時から5年」または「債権が発生してから10年」のいずれか早い方で時効が成立します。ただし、一部返済や債務の承認があると、時効が中断されてしまうため、正確な時効の起算点を確認することが重要です。
援用の手続きは、内容証明郵便を使って債権者に「時効を援用する」旨の通知を出すことで行います。自分で手続きを行うことも可能ですが、形式に不備があると無効になる恐れがあるため、弁護士に依頼する方が確実です。費用は通常5~10万円程度ですが、自力で行えば郵送料数千円で済みます。
一方、援用によるデメリットもあります。まず、債権者が援用通知に対して訴訟を起こしてくる可能性があります。この場合、裁判所で時効完成の主張を繰り返す必要があり、追加の時間や費用がかかります。また、債権者が金融機関である場合、将来的にその金融機関と取引を行う際に不利益が生じる可能性もあります。信用情報機関には登録されませんが、金融機関の内部には「時効援用をした顧客」として記録が残ることがあります。
さらに、共同相続人がいる場合は注意が必要です。相続人の一人だけが援用した場合でも、他の相続人に債権者が請求を続ける可能性があります。このような場合には、相続人間での調整や合意形成が求められます。また、援用をしたこと自体に対して、周囲から「借金を踏み倒した」と見なされるなど、心理的な負担や対外的なイメージの悪化といった面もあります。
援用と混同しやすい制度として「相続放棄」があります。これは遺産も借金も一切引き継がない選択肢で、家庭裁判所で原則3か月以内に手続きを行う必要があります。借金が多く、プラスの遺産がほとんどない場合は、相続放棄を選択する方が有利なケースもあります。
なお、援用によって借金が消滅しても、その分に対して課税されることはありません。消滅した債務は譲渡所得や贈与所得には該当しないため、税務上の心配は不要です。また、CICやJICCといった信用情報機関には登録されないため、一般的な信用スコアにも影響しません。ただし、同じ債権者との取引については慎重に考える必要があります。
実務的には、まず債務の内容と時効成立の可否を正確に把握し、弁護士に相談することをおすすめします。また、他の相続人と事前に意見を調整しておくことも重要です。援用後は少なくとも5年間は関係書類を保管しておくと、万一の訴訟に備えられます。
総じて、時効の援用は法律に基づいた正当な手段であり、うまく活用すれば借金の返済義務を法的に免れることが可能です。しかし、訴訟リスクや金融機関との関係、他の相続人との調整など、一定のデメリットが伴うため、総合的に判断したうえで進めることが大切です。専門家の助言を得ながら慎重に対応しましょう。
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関連する専門用語
時効の援用
時効の援用とは、一定期間が経過したことで法律上の権利や義務が消滅する時効制度を、自らの利益のために正式に主張することをいいます。たとえば借金の返済義務は、法律で定められた期間が過ぎれば時効によって消滅する可能性がありますが、その効力は自動的には発生せず、本人が「時効を援用します」と意思表示をすることで初めて成立します。資産運用においては、直接的な投資商品の仕組みというよりも、金融取引や債務整理、相続などに関わる法的リスク管理の一環として理解しておくことが重要です。
消滅時効
消滅時効とは、一定の期間が経過すると、法律上の権利が行使できなくなる制度のことです。たとえば、お金を貸した場合、一定の年数が過ぎてしまうと、原則として裁判などで返済を請求する権利が消滅します。これは、時間の経過とともに事実関係が不明確になることを避け、社会的な安定と公平を図るために設けられている制度です。 民法では、原則として権利を行使できることを知ったときから5年(または権利が発生してから10年)という期間が定められています。資産運用や金融の分野でも、貸付債権、未払いの配当金、保険金請求などにおいて消滅時効のルールが適用され、時効を過ぎると本来受け取れるはずだった資産を失う可能性があります。したがって、請求や権利行使のタイミングには注意が必要であり、時効制度の理解は金融実務において極めて重要です。
相続放棄
相続放棄とは、亡くなった人の財産を一切受け取らないという意思を家庭裁判所に申し立てて、正式に相続人の立場を放棄する手続きのことです。相続には、プラスの財産(預貯金や不動産など)だけでなく、マイナスの財産(借金や未払い金など)も含まれるため、全体を見て相続すると損になると判断した場合に選ばれることがあります。 相続放棄をすると、その人は最初から相続人でなかったものとみなされるため、借金の返済義務も一切負わなくて済みます。ただし、相続があったことを知ってから3か月以内に家庭裁判所に申し立てる必要があり、その期限を過ぎると原則として相続を受け入れたとみなされてしまいます。したがって、放棄を検討する場合は早めの判断と手続きが重要です。
内容証明郵便
内容証明郵便とは、いつ・誰が・誰に対して・どんな内容の文書を送ったのかを、日本郵便が証明してくれる特別な郵便のことです。たとえば、お金の返済を正式に請求したり、契約の解除を通知したりする場合に使われます。普通の手紙とは違い、郵便局が内容を記録・保管し、あとから「確かにこの文書を送りました」と証明してくれるため、トラブルが起きたときに自分の主張を裏付ける証拠として使えます。資産運用や相続の場面でも、貸付金の返還請求や相続放棄の意思表示など、法的に重要なやりとりを確実に記録に残したい場合に活用されることがあります。慎重に相手に伝えたい意思があるときに、非常に役立つ手段です。
債務の承認
債務の承認とは、借金やその他の支払い義務が自分にあることを、債務者本人が認める行為のことです。これは口頭での発言や書面での確認だけでなく、一部の返済や利息の支払いなど、行動によって示す場合も含まれます。 債務の承認が行われると、進行中だった時効が更新され、そこから新たに時効期間が数え直されます。資産運用や金融取引の場面では、貸付金や契約上の請求権を維持するために、この制度を理解し活用することで、権利消滅のリスクを回避できます。