
退職金にかかる税金と退職所得控除とは?受け取り前に知っておきたい税率と計算方法
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公開:
2024.07.26
更新:
2025.05.30
退職金は老後資金の柱ですが、勤続年数や受取タイミング次第で数十万円単位の税額差が生じることをご存じですか? 本記事では「退職所得控除」の計算式をゼロから解説し、勤続20年の壁や短期勤続・役員区分の落とし穴を具体例で可視化。さらに2026年から適用される「10年ルール」と、iDeCo・企業型DC・小規模企業共済をどう組み合わせれば控除を最大化できるかを図解で整理します。読み終えるころには、退職金の受取順序を変えるだけで手取りを数十万円上積みできるイメージが湧き、必要な準備が見えてきます。先に押さえておけば後悔しない税金戦略をまとめました。
サクッとわかる!簡単要約
本記事を読むと、退職所得控除の計算式と税率表の使い方がゼロから理解でき、勤続年数別・金額別シミュレーションで手取り額の違いを一目で確認できます。短期勤続・役員区分の特例、複数回受取に絡む5年・19年・新10年ルールも図解し、iDeCo・企業型DC・共済一時金を組み合わせた最適受取パターンを具体数値で提示。制度変更前に準備すれば、税負担を数十万円単位で減らし、そのまま旅行資金や教育資金に充てられる具体的メリットまで体感できます。退職目前の方も10年以上先の方も、今読むことで退職金受け取りの再設計に着手できます。
目次
5年以下の勤務の場合「短期退職手当等」に対する退職所得控除と退職所得
5年以下の役員・議員・公務員の期間がある場合の退職所得控除と退職所得
「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出にすれば確定申告は不要
退職金を複数回受け取る場合の注意:退職所得控除の5年ルールと19年ルール
退職所得控除の5年ルールとは?4年以内に他の退職金を受け取ると減額
確定拠出年金の一時金に適用される退職所得控除の19年ルールと注意点
2025年税制改正:2026年に新たな「10年ルール」の導入
複数箇所に勤務しており、3年違いで退職し退職手当を受け取り5年ルールが適用されてしまう場合
iDeCoを一時金として受け取り、2年後に企業からの退職金も支給され、5年ルールが適用されてしまう場合
早期退職により、iDeCoを一時金で受け取れる60歳より前に退職金が支給されてしまい、19年ルールが適用されてしまう場合
退職所得と退職所得控除の基本
退職金は老後の生活を支える大切な資金ですが、その額面どおり全てが手取りになるわけではありません。給与や賞与と同様に課税対象となり、一定の税金が差し引かれた残額が受取額(手取り退職金)となります。しかし退職金には、退職後の生活資金であることを踏まえて特別な税制優遇措置「退職所得控除」が設けられています。退職金などの退職に伴う所得は「退職所得」という区分で分離課税され、他の所得と分けて計算されます。そして退職所得控除によって、同じ金額の給与所得よりも大幅に税負担が軽減される仕組みになっています。
実は、この退職所得控除の対象となるのは会社からの退職金だけではありません。退職所得に該当する所得には、退職をきっかけとして一時的に支給されるさまざまなお金が含まれます。例えば次のようなものです。
退職手当等の項目 | 概要 |
---|---|
退職金・退職手当 | 会社から支給される退職一時金 |
企業年金や年金代わりの一時金 | 確定給付企業年金の一時金など、過去の勤務に基づき支給される一時金 |
確定拠出年金の一時金 | 企業型DCや個人型DC(iDeCo)から受け取る一時金 |
小規模企業共済の一時金 | 経営者や自営業者が積み立てた退職金共済から受け取る一時金 |
役員就任に伴う功労金等の一時金 | 執行役員への就任など特定の地位就任に際して支給されるもの |
解雇予告手当 | 解雇の際、所定の予告期間に満たない場合に支給される手当 |
未払賃金立替払制度による未払給与 | 会社倒産時などに国が立替払いする未払い給与 |
これらはすべて「退職手当等」として退職所得に含まれ、まとめて退職所得の金額を計算します。一時に支給される額が大きいため「高額な退職金には高い税金がかかるのでは?」と心配になるかもしれません。しかし前述の通り、退職所得には他の所得にない大きな控除(退職所得控除)が適用され、結果として課税対象となる額が抑えられるため、税負担は大幅に軽減されます。
退職所得控除についての簡潔な説明は以下もご参照ください。
退職金の税制優遇措置「退職所得控除」の計算方法
退職所得控除とは、退職金など退職所得の総収入額から差し引くことができる控除額のことです。勤続年数に応じた一定額が控除され、その後で税額計算が行われます。勤続年数が長いほど控除額は大きく設定されており、長年勤務した人ほど税負担が軽減される仕組みです。勤続年数の数え方は、在職期間の通算年数を基本とし、月数の端数がある場合は切り上げて1年とします。例えば、勤続20年6か月なら21年とみなします。
退職所得控除額の基本的な計算式は次のとおりです。
退職所得控除の計算式
- 勤続年数が20年以下の場合:40万円×勤続年数(ただし、最低控除額は80万円)
- 勤続年数が20年超の場合:800万円+70万円×(勤続年数−20年)
まず勤続年数が20年以内なら年40万円ずつ控除でき、たとえ勤続年数が2年や1年の場合でも最低80万円は控除可能です。勤続年数が20年を超えると、20年分として一律800万円に加え、21年目以降は1年あたり70万円ずつ控除額が増えます。
例えば、勤続年数が5年,37年の場合、退職所得控除額はそれぞれ以下のように計算されます。
勤続5年,37年の場合の退職所得控除の計算例
- 勤続5年の場合:40万円×5年=200万円
- 勤続37年の場合:800万円+70万円×(37年-20年)=1,990万円
この計算式から分かるように、勤続年数が長くなればなるほど、退職所得控除額は大きくなります。その結果、退職所得の金額が小さくなり、税負担も軽減されることになります。
退職所得の税額計算と所得税率
退職所得控除を差し引いた後の課税対象額(課税退職所得金額)は、その半分だけが所得税・住民税の課税対象になります。
計算式で表すと、通常の退職所得については次のようになります。
課税退職所得金額 =(退職金などの総収入金額 - 退職所得控除額) × 1/2
上記で求めた課税退職所得金額に対し、所得税は超過累進税率(いわゆる所得税の税率表)に従って計算されます。退職所得は他の所得と分離して課税されますが、税率自体は通常の所得税率と同じ体系です。以下に所得税の速算表に基づく税率と控除額を示します(所得税は課税退職所得金額にこの税率を当てはめ、算出税額から控除額を引いて計算します)。
課税退職所得金額(課税対象額) | 所得税率 | 所得税の控除額 |
---|---|---|
1,000円 ~ 1,949,000円 | 5% | 0円 |
1,950,000円 ~ 3,329,000円 | 10% | 97,500円 |
3,330,000円 ~ 6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 ~ 8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 ~ 17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 ~ 39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
所得税に加えて、課税所得金額に対して住民税10%(一律)も課税されます。また算出された所得税額の2.1%にあたる復興特別所得税も別途かかります。住民税と復興特別所得税は課税退職所得金額に直接定率を乗じて計算します(住民税には控除額はありません)。
例えば、退職金が2,200万円、勤続年数が37年の場合、退職所得控除額は1,990万円でした。この場合、退職所得は以下のように計算されます。
退職所得:(2,200万円 - 1,990万円) × 1/2 = 105万円
この退職所得105万円に対して所得税・復興特別所得税および住民税が課税されます。
所得税は、課税退職所得金額(105万円)に税率(5%)をかけ、控除額(0円)を差し引いて計算されます。復興特別所得税は所得税額×2.1%、住民税は、課税退職所得金額に定率10%で計算されます。
退職所得105万円の場合の税額
- 所得税:105万円×5%-0円=52,500円
- 復興特別所得税:52,500円×2.1%=1,102円(端数切り捨て)
- 住民税:105万円×10%=105,000円
- 税の総額:158,602円
退職金2,200万円から税額158,602円を引いた金額が、手取り額となり、21,841,398円(約2,184万円)です。
退職金が2,200万円の額面でも、手取りが2,184万円とかなり大きく、受給者に優位な制度設計になっていることがわかります。
5年以下の勤務の場合「短期退職手当等」に対する退職所得控除と退職所得
勤続年数が5年以下と短い場合、退職金などの所得は税法上「短期退職手当等」とみなされ、課税方法が少し異なります。特定役員以外の一般社員について、勤続5年以下の退職手当等に対する退職所得の計算は、退職所得控除後の金額が300万円を超えるか否かで扱いが分かれます。
退職所得控除後の金額が300万円以下の場合
通常の退職所得と同様に、控除後の残額の1/2が課税退職所得金額になります。
つまり 「(退職金総額 - 退職所得控除額) ÷ 2」 で計算します。
退職所得控除後の金額が300万円を超える場合
短期退職手当等の場合は、300万円を超える部分について税負担が重くなります。具体的には、その超過分は半分ではなく全額が課税対象となる計算式に置き換わります。
課税退職所得=150万円+{退職金総額-(退職所得控除額+300万円)}
ここで150万円というのは、300万円までの部分を通常通り1/2した金額(=150万円)を意味しています。
短期退職手当等の例
例として、勤続4年で退職金600万円を受け取ったケースを考えます。退職所得控除の金額と、控除後の金額は以下のとおりです。
短期退職手当等の場合の退職所得控除と退職所得
- 退職所得控除額:40万円×4年=160万円
- 退職所得:600万円-160万円=440万円
これは300万円を超えているため特例計算が適用され、課税退職所得金額は以下のようになります。
課税退職所得金額=150万円 + (600万円 - (160万円 + 300万円)) = 290万円
一方、もし通常計算(半分課税)であれば
課税退職所得金額=(600万円 - 160万円) ÷ 2 = 220万円
短期退職手当等の特例により、このケースでは課税対象額が70万円増えていることがわかります。つまり、勤続5年以下で退職金の金額が大きい場合は、一定額を超えた部分について税金が重くかかる仕組みになっています。短期勤続で退職金を受け取る際は、この計算方法の違いに注意しましょう。
5年以下の役員・議員・公務員の期間がある場合の退職所得控除と退職所得
勤続期間のうち5年以下の期間を役員等として勤務していた場合、その期間に対応する退職金については別途「特定役員退職所得控除額」という計算方法が適用されます。役員や議員、公務員としての勤続が短期であるケースでは、退職所得控除の扱いと課税方法が一般とは異なり、その分税負担が重くなる点に注意が必要です。
特定役員とは、以下の3種類を指します。
- 法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事および清算人ならびにこれら以外の者で法人の経営に従事している一定の者
- 国会議員および地方公共団体の議会の議員
- 国家公務員および地方公務員
要するに会社役員や議員などが在任5年以内で退職した場合に該当し、その役員等期間に対応する退職金については課税が厳しくなります。具体的には、通常の退職所得控除額は勤続年数に応じて計算しますが、役員等として5年以下勤務した部分の退職金については、退職所得控除後の金額を2分の1にする優遇措置が適用されません。
特定役員退職所得控除額の例
例えば、ある人が15年間勤めた会社の最後の4年間を執行役員として過ごし、一般社員としての11年分の退職金1,100万円と、執行役員としての4年分の退職金600万円を受け取ったとします。この場合、退職所得控除額は以下のように計算されます。
一般社員と執行役員がある場合の退職所得
- 一般社員分:(1,100万円-(40万円/年×11年))÷2=330万円
- 執行役員分:600万円-(40万円/年×4年)=440万円
- 退職所得金額の合計:330万円+440万円=770万円
特定役員退職所得については、一般の退職所得控除のように課税退職所得金額を2で割ることはありません。そのため、課税退職所得金額が一般の場合と比べて大きくなります。
この例の場合、所得税額は以下のように計算されます。
課税退職所得金額770万円 × 税率23% - 控除額636,000円 = 所得税額1,135,000円
住民税は77万円、復興特別所得税は23,835円となることから、退職金の手取り金額は、15,071,165円(約1,507万円)です。
このように、特定役員退職所得控除額の計算方法は一般の退職所得控除とは異なり、特定役員としての勤務期間が5年以下の場合、その部分の退職金に対しては税負担が重くなる点に注意が必要です。
「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出にすれば確定申告は不要
一般的に会社員が退職する際、退職時の税金処理は、原則として会社が行いますが、状況によっては自分で確定申告が必要な場合があります。
1. 通常のケース:「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出
退職前に「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出すれば、会社で所得税と復興特別所得税を計算し、源泉徴収します。この場合、通常は確定申告の必要はありません。
ただし、退職金と関係なく確定申告を行う場合(医療費控除・寄附金控除等の申請や雑所得が年間20万円以上の場合など)は、確定申告書に退職所得を記載する必要があります。
いずれによ、「退職所得の受給に関する申告書」を提出すれば退職金に起因して確定申告を行う必要はありません。
2. 「退職所得の受給に関する申告書」を提出しない場合は確定申告が必要
「退職所得の受給に関する申告書」を提出しない場合、退職金から一律20.42%の税金が源泉徴収されます。この場合は、後日確定申告により、税額を調整を行うことができます。税率が20.42%を下回る場合は還付金が受け取れます。
一方、税率が20.42%を上回っていた場合、無申告加算税や延滞税が加算されるなどペナルティが発生する可能性があります。十分注意し、確実に確定申告をおこなうようにしましょう。
税額を正確に把握するためには、会社に任せきることなく、事前にご自身でも計算することをおすすめします。これは退職後の生活の準備にも役立ちます。
退職金を複数回受け取る場合の注意:退職所得控除の5年ルールと19年ルール
退職所得控除には「5年ルール」と「19年ルール」と呼ばれる取り決めがあります。これは複数回に退職金(一時金)を受け取る場合に、受け取りの間隔によって退職所得控除が大きく減額されてしまう仕組みです。通常の会社からの退職手当等には5年ルールが適用され、企業型DCやiDeCoなど確定拠出年金の一時金には19年ルールが適用されます。
簡単に言えば、前に受け取った退職金との間隔が短いと控除の重複が認められず、その分課税対象が増えてしまうのです。以下でそれぞれのルールについて説明します。
受取タイミングによる退職金の節税戦略については以下でも説明しています。
退職所得控除の5年ルールとは?4年以内に他の退職金を受け取ると減額
退職所得控除の5年ルールとは、ある退職金を受け取った年(以下、前回)から5年以上間隔をあけずに次の退職金を受け取ると、退職所得控除が満額使えなくなる仕組みです。
「前回受け取り年の翌年から起算して4年以内」に他の退職金を受け取った場合、勤続期間が重複する部分の控除が受けられなくなるのです。
例えば2035年に退職金を受け取った場合、次に満額の退職所得控除を受けられるのは2040年以降となります。2039年まで(2039年含む)に別の退職金を受け取ってしまうと5年ルールに抵触し、控除額が減額されます。言い換えると前回の退職金受取から5年以上間隔を空ける必要があるため、この規定が「5年ルール」と呼ばれます。
退職金を複数回受け取る場合、受取時期が近いと(5年未満だと)退職所得控除が減額されて手取りが減ることに注意しましょう。可能であれば、退職金の受け取りは5年以上間隔を空けることが望ましいです。
確定拠出年金の一時金に適用される退職所得控除の19年ルールと注意点
退職所得控除の19年ルールとは、企業型DCや個人型DC(iDeCo)など確定拠出年金の一時金に対して適用される特例です。具体的には、確定拠出年金の一時金を受け取る場合に、その受取前年以前19年以内に他の退職金を受け取っていた場合、重複する勤続(加入)期間分の退職所得控除が受けられないという仕組みです。通常の会社退職金とは異なり、この19年ルールは確定拠出年金にのみ適用されます。
例えば、会社からの退職金を受け取った後19年以内にiDeCoの一時金を受け取るような場合が該当します。前述の5年ルールよりも長期間にわたって控除の重複が制限される点が大きな違いです。言い換えれば、前回の退職金受取から20年以上(=19年超)経過していれば確定拠出年金の一時金にも退職所得控除を満額適用できますが、それ未満の間隔だと一部控除が受けられません。
このため「企業型DCやiDeCoを受け取ってから5年後以降に、次の退職金受取をしたほうがいい」と言われます。
特に早期退職して企業から退職金をもらい、その後数年以内にiDeCoの一時金も受け取るようなケースでは、19年ルールによりiDeCo側の控除が大幅に削られてしまうため注意が必要です。
確定拠出年金を一時金で受け取る場合の注意点は以下もご参照ください。
2025年税制改正:2026年に新たな「10年ルール」の導入
2025年度の税制改正(令和7年度改正)で退職金とiDeCo/DC一時金の受取間隔がこれまでの約5年から約10年に延長されました。
具体的には、「退職手当(退職金)を受ける年の前年以前9年以内」にDC一時金を受け取っていた場合、勤続年数の重複排除による控除調整の対象となるよう改められます(改正前は「前年以前4年以内」)。これを平易に言い換えると、iDeCoや企業型DCの一時金を先に受け取った場合、その後10年以上間隔を空けないと、後から受け取る退職金で退職所得控除を満額利用できなくなるということです。
従来は5年空ければセーフだったものが、改正後は倍の10年空けないと同じ恩恵を受けられません。 この改正は2026年1月1日以降に支払われるDC一時金と、それに続いて受け取る退職金から適用される予定です。つまり、2025年末までに受け取る給付については旧ルールが適用され、それ以降は新ルールに切り替わる見込みです。
退職所得控除が減額されてしまう受け取り方の例
以下では、5年ルール、19年ルールの適用でどのように退職所得控除や退職所得が変化するかの例を示します。受け取りのタイミング調整が難しい退職手当でない限り、5年ルール・19年ルールの適用されないタイミングでの受け取りが税額を少なく、手取り額を大きくできます。
複数箇所に勤務しており、3年違いで退職し退職手当を受け取り5年ルールが適用されてしまう場合
45歳から65歳まで20年間A社に、58歳から68歳までB社にそれぞれダブルワークで勤務し、A社から2000万円、B社から1000万円の退職金が支給された場合を考えます。
65歳のとき、A社から受け取る退職金の退職所得控除と退職所得は以下の通りです
A社から受け取る退職金の控除と所得
- 退職所得控除:40万円/年×20年=800万円
- 退職所得:(2,000万円-800万円)÷2=600万円
68歳の時にB社から受け取る退職金への退職所得は、4年以内にA社からの退職金を受け取っているため、重複期間分の退職所得控除が得られません。重複していない66歳から68歳の3年間のみ計上されます。
68歳の時にB社から受け取る退職金への退職所得は、4年以内にA社からの退職金を受け取っているため、重複期間分の退職所得控除が得られません。重複していない66歳から68歳の3年間のみ計上されます。
B社から受け取る退職金の控除と所得
- 退職所得控除:40万円×3年=120万円
- 退職所得:(1000万円-120万円)÷2=440万円
B社退職金に退職所得控除が満額受けられていた場合
- 退職所得控除:40万円×10年=400万円
- 退職所得:(1000万円-400万円)÷2=300万円
5年ルールが適用されたことにより、140万円の課税所得がプラスされてしまいました。このように、複数の退職金を受け取る場合、受け取る時期が近いと退職所得控除が減額され、税額が大きくなってしまいます。
iDeCoを一時金として受け取り、2年後に企業からの退職金も支給され、5年ルールが適用されてしまう場合
例えば、iDeCoに50歳から加入している人が、63歳の時に一時金として500万円の受け取りを行い、65歳の時に25歳から40年間勤めた企業の退職金2,000万円を受け取る場合の事を考えます。
63歳で受け取るiDeCo一時金に対する退職所得控除は、加入期間13年のため、40万円/年×13年=520万円となります。一時金の500万円よりも額が大きいため、非課税です。
65歳で受け取る退職金に対する退職所得控除は、勤続40年からiDeCoとの重複期間13年が削られ、27年分となります。
企業の退職金の控除と所得
- 退職所得控除:800万円+70万円/年×7年=1,290万円
- 退職所得:(2,000万円-1,290万円)÷2=355万円
企業退職金の控除が満額だった場合
- 退職所得控除:800万円+70万円/年×(40年-20年)=2,200万円
- 退職所得:0円(非課税)
退職金を受け取る4年以内に、別の退職金であるiDeCoの一時金を受け取ってしまったため、退職所得控除が減額されてしまいました。この場合だと、iDeCoの一時金を60歳の時に受け取っていれば、65歳で受け取る企業からの退職金も満額退職所得控除の対象でした。このように受け取りのタイミングは非常に重要です。
早期退職により、iDeCoを一時金で受け取れる60歳より前に退職金が支給されてしまい、19年ルールが適用されてしまう場合
22歳から35年間務めた会社を57歳のときに退職し、退職金を受け取った人が40歳からiDeCoも加入していた場合を考えます。早期退職により57歳で退職金が支給されてしまうと19年ルールにより、iDeCoの退職所得控除が満額受けられるのは57歳から19年後の76歳のとき、ということになります。
iDeCoを一時金として受け取れるのは75歳までなので、iDeCoを一時金で受け取ろうとしても退職所得控除が大きく削られ、税額が大きくなってしまいます。具体的に数字を置いてみると以下のようになります。
退職金が22歳から勤続35年、57歳の時に2,000万円だった場合として計算します。
企業からの退職金にかかる控除と所得
- 退職所得控除:800万円+70万円/年×15年=1,850万円
- 退職所得:(2,000万円-1,850万円)÷2=75万円
一方、iDeCoが40歳から65歳まで積立てを実施し、65歳で一時金を500万円受け取る場合は次のようになります。
19年ルールにより重複期間の退職所得控除が減額された場合
- 退職所得控除:40万円/年×(加入期間25年-重複期間17年)=320万円
- 退職所得:(500万円-320万円)÷2=90万円
iDeCoに対する退職所得控除が満額の場合
- 退職所得控除:800万円+70万円×(25年-20年)=1,150万円
- 退職所得:0円(非課税)
このように、受け取る順番や感覚によって税額が大きく異なることがおわかりいただけたかと思います。
退職金の受け取り方による受取金額の違いについては以下の記事でも詳しく説明しています。
この記事のまとめ
退職金の税額は「いつ・何を・どう受け取るか」で大きく変わります。本記事の計算式と3つのルールを使い、勤続年数と退職金額を試算して受取順序を整理しましょう。制度改正で控除が変わる2026年以降を見据え、早めに計画を更新しておくと安心です。資金計画を数字で把握することで、安心感が高まり次の行動に移りやすくなります。制度を併用する場合は計算が複雑になるため、条件に迷ったときは税務に詳しい第三者に相談してみてもいいでしょう。余裕をもってシミュレーションを終えておけば、受取方法の選択肢やライフプランへの反映も余裕を持って検討できるでしょう。

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確定拠出年金(Defined Contribution)とは、受給者自身が資産を運用する年金制度で、個人型と企業型に分けることができる。受給者は、自らや企業が搬入した掛け金を運用し、受給要件を満たした際に給付金を受け取ることができる。給付額はそれぞれの運用法によって異なるので、老後の給付額は現役時代には確定しない。 受給者に対するメリットとしては、確定拠出年金(DC)は確定給付年金(DB)と比べて受給権が確立されていることや、自身のDC資産のみを管理すればいいことが挙げられるが、価格変動が生じるため給付額が見込みでしか計算できないというデメリットがある。
住民税
住民税は、居住地の自治体(市区町村および都道府県)に納める地方税で、地域の行政サービスを賄うために使われます。住民税は「所得割」と「均等割」の2つで構成されます。 所得割は、前年の所得に基づき一律の税率(多くの場合10%)で計算されます。一方、均等割は所得に関わらず一律の金額(全国基準では年額5,000円程度)を納める部分です。 住民税は、所得税のような累進課税ではなく比例課税が基本で、納税額は所得や扶養状況などにより異なります。また、住民税は原則として前年の所得に基づき計算されるため、納税は翌年度に行われます。これにより、地域社会の運営を支える重要な財源となっています。
分離課税
分離課税(ぶんりかぜい)とは、特定の所得について他の所得と合算せず、その所得単独で税額を計算し、課税する方式です。分離課税には「源泉分離課税」と「申告分離課税」の2種類があります。
総合課税
総合課税は、給与や年金、事業収入、不動産収入、利子、配当など、1年間に得たさまざまな所得を合算し、その合計額に累進税率を適用して所得税を計算する方式です。 所得が増えるほど税率が高くなるため、高所得者ほど税負担が大きくなる点が特徴です。一方、金融所得には総合課税以外の課税方法を選択できる場合があります。 たとえば、株式譲渡益や先物取引益などは「申告分離課税」を選ぶことで、ほかの所得と区分して一律20.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%)で申告できます。 また、預貯金利息や一部の公社債利子などは、支払元が税金を源泉徴収する「源泉分離課税」となり、原則として確定申告は不要です。配当や利子のように課税方式を選択できるケースでは、ご自身の所得水準や控除の有無、損益通算の可能性を踏まえ、総合課税・申告分離課税・源泉分離課税のどれを採用するかを検討することが、最終的な税負担を抑えるうえで重要になります。