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マクロ経済モデルで投資判断を磨く──AI予測・FTPL・CBDC

マクロ経済モデルで投資判断を磨く──AI予測・FTPL・CBDC

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公開:

2025.05.14

更新:

2025.05.14

マクロ経済モデルを理解しながら投資判断を磨くことで、市場の動きをより深く洞察できるかもしれません。近年、マクロ経済に興味を持ち、「経済そのもの」を学びながら資産運用に取り組みたいと考える投資家が増えています。

本記事では、一橋大学教授の砂川武貴教授への取材メモを基に、経済研究の現場から得られる知見を共有します。(本記事は砂川武貴氏へのインタビュー取材メモを基に、編集部が再構成しています。)

サクッとわかる!簡単要約

本記事は、一橋大学の砂川武貴教授のインタビューをもとに、段階的接近法とマクロモデルの違い、AI予測を補完する人間の判断、財政と物価を結ぶFTPL、CBDCが金融へ及ぼす影響をわかりやすく整理します。教授が勧める「教科書→新聞→国際レポート」の学習手順も紹介しており、読後には経済ニュースを投資判断へ結び付ける視点が身につきます。

目次

段階的接近法とマクロモデルの解説

AI経済予測の限界と期待形成の重要性

FTPL(物価水準の財政理論)の紹介と日本への含意

CBDC(中央銀行デジタル通貨)が銀行や投資に与える影響

CBDCとは何か

銀行への影響

将来像

経済学習ロードマップ:教科書とメディア活用法

標準的な教科書で基礎固め

経済メディアで知識を実戦投入

国際的な視野を持つ

好奇心を持ち続ける

おわりに:知的好奇心を原動力に

段階的接近法とマクロモデルの解説

経済予測はどのように行われているのでしょうか。実は大きく二つの手法があります。一つは段階的接近法と呼ばれるアプローチです。これは経済全体を消費・投資・輸出入など部門ごとに分割し、各部門の担当者が個別に予測を立て、それらを整合するよう何度も調整する方法です。例えば、まず個人消費や設備投資の見通しを立ててGDPを計算し、その結果を見てまた消費や投資の予測を修正する―という具合に、試行錯誤を繰り返して全体のバランスを取ります。

この方法では現場を知る専門家の勘や経験が色濃く反映され、データに現れにくい直感や企業へのヒアリングなどから得られた最新事情を活かせるのが利点です。一方で人によって手順や判断が異なり得るため、再現性(第三者が同じ予測結果を得られるか)にやや乏しい面があるとも言われます。現場感覚に優れるものの、定量的で客観的な裏付けを示しにくい側面があるのです。

もう一つはマクロモデル(連立方程式モデル)によるアプローチです。こちらは経済の様々な変数(GDP、物価、金利、雇用など)の関係式を体系的に構築し、それらを同時に解くことで全体を一貫して予測します。段階的接近法のように一部の相互作用を無視してしまう欠点を避けられるため、理論的に筋が通った予測が可能です。

例えば、消費と投資がお互いに影響を与える関係も、マクロモデルなら同時に計算して均衡点を探れるため、需要と供給のズレが生じにくくなります。モデルによる予測は一貫性が高い反面、構築した方程式の精度や前提条件に依存するため、現実とのズレを補正する工夫も必要になります。

実際の経済予測の現場では、この「職人技」の段階的接近法と「モデル駆動型」の計量モデルの両方が使われています。民間シンクタンクの予測は伝統的に段階的接近法が用いられてきました。一方で内閣府や日本銀行などでは大型のマクロ経済モデルを開発・活用し、統計モデルによる分析にも力を入れています。砂川氏は「予測にはモデルと専門家の知見という両輪が重要です。モデルが示す数字も参考にして、最新のデータや制度変化を踏まえて専門家が微調整することで、より現実に即した見通しになります」と指摘します。近年では、段階的接近法で積み上げた予測とモデル予測を組み合わせ、それぞれの長所を取り入れる試みも行われています。

このように、経済予測づくりは単なる機械的な計算ではありません。理論と実証データ、そして経験知が交錯する「舞台裏のドラマ」と言えるでしょう。モデルという地図と、専門家の羅針盤を両手に持つことで、より精度の高い未来図を描こうとしているのです。

AI経済予測の限界と期待形成の重要性

近年はAI(人工知能)を使った経済予測も注目されています。「大量の経済データを機械学習モデルに学習させれば、人間以上に精度の高い予測ができるのでは 」と期待されているからです。

しかし砂川氏は「AI予測にも得手不得手がある」と語ります。確かにAIは過去データのパターン検出に優れ、膨大な情報を短時間で処理できます。一方で、人間のエコノミストが直面するのと同じく、歴史にない構造変化やデータに現れない期待の変化に対応することは大きな課題です。

AIモデルは基本的に「過去の延長線上」にあるパターンから未来を推測します。そのため、リーマンショック級の金融危機や未曾有のパンデミックのような「過去に例のない極端な事態」には弱い傾向があります。実際、歴史にない急変が起これば人間ですら予測を外しますが、AIも同様です。また、人間のエコノミストであれば状況の文脈を考慮し「今回は事情が違う」と直感的に判断して予測を修正することがあります。

しかしAIは与えられたデータやパターンから逸脱することができないため、政策当局者の微妙な態度変化や地政学リスクの高まりなど数値化しにくい情報のニュアンスを理解するのは苦手です。言い換えれば、文脈を読む力や現場感覚といった点では人間の判断に軍配が上がる場面も多いのです。

もう一つ、AIと人間の大きな違いとして期待形成へのアプローチが挙げられます。マクロ経済では、人々や企業が将来をどう予想するか(例えばインフレ期待)が現在の経済活動に影響します。マクロモデルでは「合理的期待形成」(人々は利用可能な情報を使って合理的に将来を予想するという仮定)を組み込みますが、AIにこの概念を教え込むのは簡単ではありません。

人間のエコノミストは政策発表や市場心理の変化から「人々が将来どう考えているか」を読み解こうとします。しかしAIは、それがデータとして明示されない限り扱えません。例えば中央銀行が「将来インフレ率は○%程度になる」といったメッセージを発したとき、人間ならその影響を考慮に入れますが、AIは直接データ化されない期待心理を反映させることが難しいのです。

さらに、AIの出す予測結果はブラックボックスになりがちという問題もあります。なぜその予測になったのか、背景のメカニズムや理由を説明しづらいのです。これに対し、人間の予測は「◯◯が起これば△△になる」という物語として説明できる違いがあります。砂川氏は「最終的にはAIと人間のハイブリッドが理想」と言います。実際、多くの調査機関では統計モデルによる機械的予測とエコノミストの判断を組み合わせています。AIの計算力と、人間の理論知・洞察力を補完させることで、お互いの限界をカバーしようとしているのです。

FTPL(物価水準の財政理論)の紹介と日本への含意

マクロ経済学には、伝統的な考え方に一石を投じる新しい理論も登場しています。その一つが物価水準の財政理論(FTPL: Fiscal Theory of the Price Level)です。FTPLはプリンストン大学のクリストファー・シムズ教授らによって提唱され、インフレ(物価水準)の決定要因を金融政策ではなく財政面から捉え直すものです。

通常、インフレ率や物価水準は中央銀行の金融政策(マネタリーベースの増減や金利操作)によって決まると考えられています。しかしFTPLでは、政府の財政運営―とりわけ国債発行と将来の財政黒字(政府の将来的な支払い余力)―に注目します。その基本となる関係式はシンプルで、以下のように表されます。

名目国債残高 ÷ 物価水準 = 将来にわたる実質財政余剰の現在価値の期待値

要するに「政府が発行した国債の実質的な価値(=名目国債残高を物価で割った額)は、将来政府が生み出す財政余剰(プライマリーバランス黒字)の現在価値に等しくなる」という関係です。この式自体は政府の予算制約式そのものですが、FTPLではこれをマクロ経済モデルの連立方程式の一つと考え、物価は貨幣の量ではなくこの財政式で決まると考えます。

では、この理論からどんな示唆が得られるでしょうか。ポイントは「財政政策が物価水準を左右し得る」という視点です。例えば、人々が「政府は将来にわたって増税も歳出削減もしない(つまり財政再建を本気でやらない)」と予想したとします。そうすると、将来得られる財政余剰の現在価値は小さくなります。このとき上記の関係式を成り立たせるには、左辺の分母である物価を上昇させる(つまりインフレになる)しかなくなります。

なぜなら、将来の財政余剰が減る(=財政悪化への期待)にもかかわらず国債残高が増え続ければ、物価を大幅に上げて国債の実質価値を目減りさせない限り、財政は破綻してしまうからです。極端な場合、将来の財政余剰がマイナス(永遠に赤字)とみなされれば、理論上は物価が無限大に発散し(ハイパーインフレ)、国債が紙くずになることで帳尻を合わせるしかなくなる―という非常に刺激的な結論になります。

日本へのインプリケーションもこの文脈で語られます。日本はGDP比で2倍を超える巨額の政府債務を抱えていますが、市場金利は超低水準で安定し、インフレ率も長らく低迷してきました。伝統的には「日銀の金融緩和が不十分だからデフレになる」という議論が多かったのですが、FTPLの視点からは逆に「政府が財政拡張を続ければ、いずれ市場が財政に不安を抱き、インフレが跳ね上がる可能性がある」という警鐘になります。

YCCの仕組みを深掘りしたい方はこちら

実際、シムズ教授は「日本がデフレから脱却するには一時的に財政赤字を恐れず支出せよ。ただしその後で財政引き締めを行い、国債の信認を保つことが必要」といった趣旨の提言をしています。FTPLは金融政策だけでなく財政政策の威力とリスクを示唆する点でユニークと言えるでしょう。

もっとも、この理論には賛否両論があります。物価が財政要因で決まるという主張は、「インフレは常に貨幣的現象である」とするマネタリスト(貨幣主義者)の見方と真っ向から異なります。また実証的にも、財政赤字がすぐに高インフレを招いた例ばかりではありません。ただ、日本のように債務残高が膨大で金融緩和の余地も限られるケースでは、「FTPL的」な現象(財政悪化懸念によるインフレ)の可能性が現実味を帯びる―と指摘する研究者もいます。

砂川氏は「FTPLは極端なシナリオですが、財政と金融の連携を考える上で非常に示唆に富む理論です。日本では財政再建とデフレ脱却のジレンマがありますが、最終的に国債を日銀が引き受け続ける状況は、長期的なインフレリスクをはらむことをこの理論は教えてくれます」とコメントしました。

要は、政府の財政の持続可能性に市場が疑念を抱けば、そのツケはいつかインフレという形で回ってくる可能性がある―この視点を忘れてはならないということです。投資家にとっても、国の財政動向が将来の物価や金利に影響を与える点は押さえておきたいポイントでしょう。

CBDC(中央銀行デジタル通貨)が銀行や投資に与える影響

「デジタル円」に代表される中央銀行デジタル通貨(CBDC)は、金融界でホットな話題です。砂川氏も「CBDCは金融システムの形を変える可能性がある」と注目しています。ここではCBDCの概要と、それが銀行や投資に及ぼし得る影響、そして将来的な展望について考えてみましょう。

CBDCとは何か

端的に言えば、「中央銀行が発行するデジタル上のお金」です。現在私たちが使う電子マネーや銀行預金は民間銀行が発行する通貨ですが、CBDCは中央銀行が直接発行するデジタル通貨という点が異なります。もし一般向けのCBDC(リテールCBDC)が導入されれば、誰もが中央銀行にデジタル口座を持ち、現金と同じように安全(信用リスクのない)なデジタルマネーを利用できるようになるかもしれません。デジタル時代に即した「公的なお金」の新形態として、各国の中央銀行が研究・実験を進めています。

銀行への影響

CBDCで真っ先に議論されるのは、銀行預金の置き換えリスクです。仮に日銀のデジタル円が誰でも自由に利用できるようになれば、人々や企業は安全で便利な「日銀マネー」に資金を移す可能性があります。その結果、民間銀行の預金残高が減少すれば、銀行は貸し出しの原資を失い、経済への信用供給が縮小するリスクがあります。中央銀行が直接デジタル通貨で企業や個人に貸し出すわけではないので、銀行預金がCBDCに流出して銀行の貸出余力が落ちれば、企業の資金調達が難しくなりかねません。特に金融危機のような有事の際には、銀行預金からCBDCへの「デジタル取り付け(取り付け騒ぎ)」が起こる懸念も指摘されています。

もっとも、現実には中央銀行も無制限にCBDCを発行するとは想定しておらず、各国で設計上の工夫が議論されています。例えば一人当たりのCBDC保有額に上限を設ける、利便性は確保しつつも大量の預金流出を防ぐ仕組みを入れる等、銀行システムへの影響を和らげる対策が検討されています。

一方、CBDCには経済全体へのメリットも期待されます。国家が保証するデジタルマネーであるため、決済インフラの安定性・効率を高め、送金コストを下げる効果が見込まれます。例えば24時間365日瞬時に送金が完結し、キャッシュレス社会を後押しするでしょう。また、紙幣や硬貨の発行・管理コストを削減し、偽札リスクもなくせます。さらに金融包摂(銀行口座を持てない人でも安全な通貨を利用できる)にも寄与し得ます。金融政策面でも、CBDCに金利を付与することで中央銀行が家計・企業の持つお金に直接働きかける新たな手段も考えられます(例えば大幅なマイナス金利をCBDC口座に適用するなど、より強力な政策の可能性)。

※投資家への影響: こうした銀行への影響や金融システムの変化は、投資家にも無関係ではありません。銀行を通じた資金供給が滞れば企業業績や市場の流動性に影響しかねず、株式・債券市場に不確実性をもたらす可能性があります。一方で、CBDCによって決済効率が上がり新たな金融サービスが生まれれば、フィンテック分野などへの投資機会が広がる面もあるでしょう。投資家としては、CBDCによる金融環境の変化を注視し、新たなリスクとチャンスを見極めることが重要になりそうです。

将来像

砂川氏は「近未来の決済システムはハイブリッドになるだろう」と見ています。つまり、現金、民間のデジタル通貨(銀行預金や今後普及するかもしれない安定的な暗号資産=ステーブルコイン)、そしてCBDCがそれぞれの役割に応じて併存し、適材適所で使われる世界です。実際、イギリスなどではCBDCと民間ステーブルコインの双方を「新しい形態のデジタルマネー」と位置付け、両輪で普及させる検討もなされています。日本銀行も2023年から実証実験を開始し、将来本格発行するか慎重に見極める姿勢です。仮に最終的に「CBDCは発行しない」という決断をするにしても、新技術を十分検討した上での判断となり、決済システム全体の方向性を考える上で意義のあるプロセスと言えるでしょう。

要するに、CBDCは金融の在り方を問い直す契機です。銀行にとっては既存ビジネスモデルの変革を迫られるリスクである一方、新たなサービス創出の機会にもなり得ます。経済全体にとっても利便性向上という恩恵と、信用仲介機能が損なわれるリスクの両面があります。砂川氏の言葉を借りれば「CBDCは両刃の剣。恩恵を享受しつつ金融仲介機能を損なわないよう、制度設計がカギになる」と言えるでしょう。投資家としても、この両刃の剣がもたらす金融環境の変化に備え、自身のポートフォリオや戦略にどんな影響が及ぶかを考えておく必要があるかもしれません。

経済学習ロードマップ:教科書とメディア活用法

最後に、読者ご自身がマクロ経済を学び、このような知見を「知的投資」に活かすためのステップを提案します。砂川氏は「経済を見る目を養うには、基礎理論の習得と日々の経済ニュースのウォッチの両方が大事」とアドバイスします。具体的には、以下のような方法が有効です。

標準的な教科書で基礎固め

マクロ経済の全体像を体系立てて理解するには、まず大学で使われるような標準的な教科書で基礎固めをするのが近道です。砂川氏のおすすめはマンキュー(N. Gregory Mankiw)教授の『入門経済学』や『マクロ経済学』といったテキストです。マンキューの教科書は世界中で最も読まれている経済学の入門書であり、ハーバード大学やシカゴ大学でも採用される定番中の定番です。グローバル標準の教科書だけあって内容は平易で噛み砕かれており、経済の「原理原則」を押さえるのに最適です。

例えばGDPとは何か、インフレ率や失業率の意味、金融政策・財政政策が経済に与える基本的なメカニズム―こうしたマクロ経済の基本事項を一通りマンキュー本で学べばしっかり土台ができます。基礎が固まれば、日々伝えられるニュースを理論のフレームで捉え直すことができるようになります。「なぜ金利が上がると株価が下がりやすいのか」「なぜ円安になると物価が上がりやすいのか」といった因果関係も見えてきて、ニュースの理解度が飛躍的に高まるでしょう。

経済指標の意味を体系的に学ぶならこちらもご参照ください。

経済メディアで知識を実戦投入

基礎知識を身につけたら、次は日々の経済ニュースを教材にして理解を深めましょう。具体的には、日頃から 日本経済新聞 を読む習慣をつけることをお勧めします。最新の経済動向や政策の報道に継続的に触れることで、経済の実像を掴む力が養われます。日経新聞は企業業績から金融政策まで幅広く網羅しており、学んだ理論と現実社会の出来事を結びつける絶好の素材となります。

ただし最初は情報量の多さに圧倒されるかもしれません。その場合、まずは興味のある見出しの記事だけ読んでも構いません。慣れてきたら経済面やマーケット面の解説記事にも目を通し、専門用語やデータの見方に徐々に慣れていきましょう。新聞を継続的に読むことは、経済リテラシー向上に欠かせない勉強法です。スマホの経済ニュースアプリやニュースレターを活用するのも良いでしょう。重要なのは、「理論で学んだこと」と「現実のニュース」を往復しながら理解を深めることです。

国際的な視野を持つ

視野をさらに広げるため、英語圏の経済メディアにも挑戦してみましょう。とりわけ The Economist 誌(英エコノミスト)は質の高い経済分析記事が多く、世界経済や各国政策の動向を知るのに適しています。最初は難しく感じるかもしれませんが、興味のあるトピックから読み始め、徐々に全文を読む習慣を付けると、グローバルな視点と分析の切り口が身についてきます。また、IMF(国際通貨基金)や世界銀行のレポート、各国中央銀行の発表資料(英語)もオンラインで入手しやすいので、関心に応じて活用すると理解が深まるでしょう。日本語でも、『エコノミスト』や『日経ヴェリタス』など専門誌には質の高い分析記事が載っています。「基礎理論 ↔ ニュース実例 ↔ グローバル情報」というインプットのサイクルを回し続けることで、経済を見る目が一段と養われていくはずです。

好奇心を持ち続ける

最後に何より大切なのは、好奇心を持ち続けることです。経済は常に変化し、新しいテーマが次々と登場します。気候変動と経済、デジタル革命と生産性、地政学リスクと市場―勉強すべきことは尽きません。

砂川氏は「疑問に思ったことを調べ、自分なりに考えるクセをつけること」が上達の秘訣だと言います。投資をしていれば、嫌でも経済の動向に関心が向くものです。その関心をもう一歩深く掘り下げ、「なぜこうなるのか?」と因果関係を考えてみてください。専門家の解説を読んでもよいですし、自分でデータを探して分析してみるのも面白いでしょう。そうした知的探求の積み重ねが、そのまま投資判断の精度向上につながります。

おわりに:知的好奇心を原動力に

マクロ経済の現場から見える世界は、複雑でありながら知的刺激に満ちています。本記事で扱った段階的接近法とモデル分析の併用、AIと人間の協調、中央銀行の専門知、新理論(FTPL)による新視点、そしてデジタル通貨(CBDC)による金融の未来像――いずれも投資家にとって他人事ではなく、自らの判断に影響を与える重要なテーマばかりです。

「経済を学びながら投資する」というスタンスは、単に利益を追求するだけでなく、知的好奇心を満たし人生を豊かにするものです。砂川氏はインタビューの最後に、「経済を見る目を養うことは、将来の不確実性に対する洞察を深め、自分の頭で考える力を鍛えることでもあります」と強調しました。

知識は一朝一夕には身につきませんが、少しずつ積み上げていけば、いつしかニュースの裏側にある構造が見え、先を読むセンスが磨かれることでしょう。そのプロセス自体を楽しみながら、皆さんの投資と学びの旅が実り多いものとなることを願っています。

この記事のまとめ

記事で得た視点を深めるには、まずマンキューの『マクロ経済学』など定番テキストで理論を体系立て、『日本経済新聞』や The Economist で実例に触れてください。仕組みが腑に落ちたら、気になるテーマを少額 ETF や個人向け国債で試し、モデルどおり動くかを自分の資金で検証してみましょう。取引ごとに「想定と結果」をメモして振り返る習慣が、次の投資判断を磨くいちばん確かな近道です。

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投資のコンシェルジュ編集部は、投資銀行やアセットマネジメント会社の出身者、税理士など「金融のプロフェッショナル」が執筆・監修しています。 販売会社とは利害関係がないため、主に個人の資産運用に必要な情報を、正確にわかりやすく、中立性をもってコンテンツを作成しています。

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マクロ経済

マクロ経済とは、一国全体や世界全体といった大きなスケールで経済の動きを見る考え方です。具体的には、景気の動き、物価の変化、失業率、金利、為替レートなど、経済全体に関わる要素をまとめて分析することを指します。 個人や企業といった小さな単位を扱う「ミクロ経済」とは対照的で、国の経済政策や中央銀行の金融政策を考えるうえでとても重要な分野です。資産運用においても、マクロ経済の流れを理解することで、将来の市場の動きを予測しやすくなり、より的確な投資判断につながります。

段階的接近法

段階的接近法(Successive Approximation Method)は、短期マクロ経済予測で用いられる反復的な精緻化手法です。まず GDP や物価などのベースラインを設定し、その後に発表される統計や企業ヒアリングの情報で乖離を確認し、モデルや前提を少しずつ修正します。 海外では 1950 年代からフランス政府や OECD の需要予測で同様の「逐次近似法」が採用されており、日本経済研究センター(JCER)は 1967 年に四半期モデルへ組み込み、日本の景気見通しに定着させました。統計と実務感覚を両立させ、不確実性下でも外生ショックに追随しやすいことが利点です。 このプロセスを複数回回すことで数値が収れんし、最終的に国民経済計算の整合性を保ったまま予測表を完成させます。また、前提変更の影響を逐次把握できるため、政策シナリオ比較にも応用しやすいとされています。 一方、中央銀行が金利を小幅ずつ動かす運営スタイルは漸進主義(gradualism)と呼ばれ、“政策実行”の手法であって、予測手順である段階的接近法とは区別されます。

マクロモデル

マクロモデルとは、経済全体の動きを理解するために、複数の経済変数の関係を数式で表して組み合わせたものです。このモデルでは、たとえば「消費」「投資」「政府支出」などの要素が相互にどう影響し合っているかを、連立した数式で同時に表します。 これにより、景気の変化や政策の効果を予測することができます。実際には、政府や中央銀行が経済政策を立てる際などに使われることが多く、経済の全体像を数字でつかむための道具と言えます。経済の専門家が多くのデータを使って分析する際に活用されますが、投資初心者にとっても、経済の動きの背景を理解するうえで知っておくと役立つ考え方です。

FTPL(物価水準の財政理論)

FTPL(物価水準の財政理論)とは、物価がどのように決まるかを、政府の財政状況を中心に説明する経済理論です。通常、物価の変動は中央銀行による金融政策、たとえば金利の操作や通貨供給量の調整によって左右されると考えられますが、FTPLでは、政府の借金や将来の税収・支出の見通しが物価に直接影響すると見なします。 この理論によれば、政府が過度に借金を増やし、それを将来返済できる見込みが薄い場合、人々はその通貨の価値が下がると考えるようになり、結果として物価が上昇するとされます。つまり、財政政策の信頼性がその国の通貨の価値やインフレ率に大きく関係しているという見方です。インフレが高まる理由や、金融政策だけでは物価を安定させられない状況を理解するうえで、FTPLは重要な理論のひとつです。

プライマリーバランス(基礎的財政収支)

プライマリーバランス(基礎的財政収支)とは、国の財政状態を評価するための指標のひとつで、政府の歳入(税金などの収入)から、利払いを除いた歳出(公共事業や社会保障など)を差し引いたものです。つまり、過去の借金の利子を除いた「本業の収支」を表しています。 この数値が黒字であれば、国は利払いを除いた部分では自立的に財政運営できていることを意味します。逆に赤字であれば、借金に頼らなければ日々の政策を維持できない状態です。日本のように政府債務が多い国では、財政健全化の目標として「プライマリーバランスの黒字化」が掲げられることが多く、将来の物価や金利、経済成長にも影響を及ぼす重要な概念です。資産運用を考えるうえでも、国の財政が安定しているかどうかを見極める参考指標となります

インフレ(インフレーション)

インフレーションとは、物価全体が持続的に上昇し、その結果、通貨の購買力が低下する現象です。経済活動が活発になり、需要が供給を上回ると価格が上昇しやすくなります。また、生産に必要な原材料費や人件費の上昇が企業のコストに転嫁されることで、さらに物価が上昇することがあります。適度なインフレーションは経済成長の一側面とされる一方、過度な物価上昇は家計の負担を増大させ、経済全体の安定性を損なうリスクがあるため、中央銀行は金利操作などの金融政策を通じてインフレーションの抑制に努めています。

国債

発行体が各国中央政府の債券を国債といいます。発行目的や利払い方式などで種類が分別されます。中央政府に資金需要が発生した際に、国債を発行して資金の調達を行うことがあります。 投資家は国債を購入することで、発行体である中央政府へ資金を提供し、その見返りとして半年に1回などのペースで、中央政府から利子を受け取ります。償還期限までに中央政府の財政が悪化するなど、債務が履行されない状況に陥らなければ、満期には額面どおりの金額が投資家へ償還される仕組みです。 国債には、固定利付国債、変動利付国債、物価連動国債などがあります。

金融政策

金融政策とは、中央銀行が物価の安定や景気の安定を目指して、金利や通貨の供給量を調整する政策のことです。 中央銀行は、景気が過熱しすぎてインフレが進まないようにブレーキをかけたり、景気が落ち込んだときには刺激策として金融緩和を行ったりして、経済全体のバランスを保とうとします。 主な金融政策の手段には、以下のようなものがあります: - 政策金利の操作(利下げ・利上げ):短期金利を上下させて、消費や投資を刺激・抑制します。 - 公開市場操作:中央銀行が国債などを売買することで、市場の資金量を調整します。 - 預金準備率の変更:銀行が中央銀行に預ける準備金の割合を調整することで、貸し出し可能な資金量をコントロールします。 金融政策は、株式や債券、為替市場にも大きな影響を与えます。たとえば、利下げが行われれば企業の資金調達コストが下がり、株価の上昇要因となる一方で、金利低下により通貨が下落しやすくなることもあります。 このように、金融政策の動向は資産運用において非常に重要なファクターであり、中央銀行の声明や会合の結果には多くの投資家が注目しています。

CBDC(中央銀行デジタル通貨)

CBDC(中央銀行デジタル通貨)とは、国の中央銀行が発行するデジタル形式の法定通貨のことです。現在私たちが使っている紙幣や硬貨と同じく、国家によって価値が保証される通貨ですが、完全に電子的な形で発行され、スマートフォンや専用のアプリなどを通じて利用されます。 これはビットコインなどの暗号資産とは異なり、価格の安定性や信用力が国家の信用によって支えられているのが特徴です。CBDCの導入により、現金を持ち歩かなくても安全で即時的な決済が可能になるほか、金融サービスにアクセスできない人々への支援(金融包摂)や、送金コストの削減などの効果も期待されています。 また、将来的には金融政策の新しい手段として、利子付きのデジタル通貨の発行や流通量の管理など、経済全体への影響力を高めるツールとしても注目されています。資産運用を考える際にも、通貨制度の変化や金融システムの進化がどのように市場に影響するかを理解するために、重要な用語となります。

金融包摂(ほうせつ)

金融包摂とは、すべての人が公平に金融サービスへアクセスできる状態を目指す考え方です。ここでいう金融サービスには、銀行口座の開設、送金、融資、保険、資産運用などが含まれます。経済的に不利な立場にある人々、たとえば所得が低い人、地方に住む人、金融機関が近くにない地域の人などが、基本的な金融サービスを使えないことは、生活の安定や経済的自立を妨げる要因になります。 金融包摂は、そうした人々にもサービスが届くようにすることで、個人の生活改善や経済全体の活性化を目指します。たとえば、スマートフォンを使ったモバイルバンキングや、中央銀行デジタル通貨(CBDC)などは、金融包摂を実現するための具体的な手段として注目されています。資産運用の世界でも、金融リテラシー向上や少額投資の促進などを通じて、より多くの人が経済的な恩恵を受けられるようになることが期待されています。

マネタリーベース

マネタリーベースとは、日本銀行のような中央銀行が供給する「お金の元(もと)」のことを指します。具体的には、市中に出回っている現金(紙幣と硬貨)と、民間の銀行が中央銀行に預けている当座預金の合計です。これは、経済全体の資金の「土台」となる部分であり、金融政策の効果を測る上で非常に重要な指標です。 たとえば、中央銀行が金融緩和を行ってマネタリーベースを増やすと、銀行が貸し出しやすくなり、最終的に世の中にお金が回りやすくなると期待されます。このように、マネタリーベースは経済の流れをコントロールするための出発点として理解されるべきものです。

ステーブルコイン

ステーブルコインとは、価格が安定するように設計されたデジタル通貨のことです。通常の暗号資産(仮想通貨)は価格の変動が大きいため、日常の支払いや貯蓄には向いていないとされますが、ステーブルコインはこの課題を解決することを目的としています。 多くのステーブルコインは、米ドルやユーロ、日本円といった法定通貨と1対1の比率で価値を保つよう設計されており、たとえば「1ステーブルコイン=1ドル」となるように、裏付けとなる資産を保有して安定性を確保します。そのため、暗号資産の技術的な利便性を維持しながら、価格の安定性も兼ね備えており、送金や決済、資産の避難先として利用が広がっています。資産運用の視点からも、価格変動リスクを抑えつつ、ブロックチェーン技術の恩恵を受けたいと考える投資家にとって注目されている存在です。

信用リスク(クレジットリスク)

信用リスクとは、貸し付けた資金や投資した債券について、契約どおりに元本や利息の支払いを受けられなくなる可能性を指します。具体的には、(1)企業の倒産や国家の債務不履行(いわゆるデフォルト)、(2)利払いや元本返済の遅延、(3)返済条件の不利な変更(債務再編=デット・リストラクチャリング)などが該当します。これらはいずれも投資元本の毀損や収益の減少につながるため、信用リスクの管理は債券投資の基礎として非常に重要です。 この信用リスクを定量的に評価する手段のひとつが、格付会社による信用格付けです。格付は通常、AAA(最上位)からD(デフォルト)までの等級で示され、投資家にとってのリスク水準をわかりやすく表します。たとえば、BBB格付けの5年債であれば、過去の統計に基づく累積デフォルト率はおおよそ1.5%前後とされています(S&Pグローバルのデータより)。ただし、格付はあくまで過去の情報に基づいた「静的な指標」であり、市場環境の急変に即応しにくい側面があります。 そのため、市場ではよりリアルタイムなリスク指標として、同年限の国債利回りとの差であるクレジットスプレッドが重視されます。これは「市場に織り込まれた信用リスク」として機能し、スプレッドが拡大している局面では、投資家がより高いリスクプレミアムを求めていることを意味します。さらに、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の保険料率は、債務不履行リスクに加え、流動性やマクロ経済環境を反映した即時性の高い指標として、機関投資家の間で広く活用されています。 こうしたリスクに備えるうえでの基本は、ポートフォリオ全体の分散です。業種や地域、格付けの異なる債券を組み合わせることで、特定の発行体の信用悪化がポートフォリオ全体に与える影響を抑えることができます。なかでも、ハイイールド債や新興国債は高利回りで魅力的に見える一方で、信用力が低いため、景気後退時などには価格が大きく下落するリスクを抱えています。リスクを抑えたい局面では、投資適格債へのシフトやデュレーションの短縮、さらにCDSなどを活用した部分的なヘッジといった対策が有効です。 投資判断においては、「高い利回りは信用リスクの対価である」という原則を常に意識する必要があります。期待されるリターンが、想定される損失(デフォルト確率×損失率)や価格変動リスクに見合っているかどうか。こうした視点で冷静に比較検討を行うことが、長期的に安定した債券運用につながる第一歩となります。

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