
物価連動国債はなぜインフレに強い?仕組み・メリット・デメリットを徹底解説
難易度:
執筆者:
公開:
2024.04.05
更新:
2025.03.29
物価連動債(物価連動国債)は、インフレ率(物価上昇率)に連動して元本や利払い額が変動する国債です。日本では財務省が発行し、全国消費者物価指数(コアCPI)に基づいて元本額や利払い額が調整されます。
インフレ対策として注目される投資商品ですが、仕組みが一般的な国債とは異なり、注意点も多いため、正しい理解が必要です。
本記事では、物価連動債の基本的な仕組みや利回りの考え方、メリット・デメリットをわかりやすく解説し、投資判断のポイントを紹介します。
日銀が発行する利付債の種類
物価連動債は利払い方式の特徴を持つ債券の一種ですが、日銀が発行する債券にはその他にも様々な種類の利付債が存在します。ここでは、代表的な利付債の種類を紹介します。
項目 | 固定 利付債 | 物価 連動債 | 変動 利付債 |
---|---|---|---|
利息(クーポン) | 固定 | 固定(元本が物価に連動) | 変動(市場金利に連動) |
元本 | 一定(額面通り) | 物価指数に連動して変動 | 一定(額面通り) |
インフレの影響 | 実質価値が目減り(インフレに弱い) | 元本が増加するため実質価値維持 | クーポンが市場金利に応じて増加する可能性あり |
デフレの影響 | 影響なし(額面は一定) | 元本が減少するため実質価値低下 | クーポンが市場金利に応じて減少する可能性あり |
市場金利の影響 | 価格変動あり(市場金利が上がると価格下落) | 価格変動あり(実質利回りに影響) | クーポンが市場金利に応じて変動 |
固定利付債
固定利付債は、発行時に決定された一定の利率に基づき、定期的に利息が支払われる債券です。日本では、以下の償還期間の固定利付債が発行されています。半年ごとに決まった額の利息が支払われ、満期時に元本が償還されます。長期債ほど金利リスクは大きくなりますが、利回りも高くなる傾向があります。
変動利付債
変動利付債は、市場金利の変動に応じて利率が変更される債券です。一般的には、一定期間ごとに市場の金利指標に基づいて金利が再設定されます。日本では、15年変動利付国債が発行されており、「半年ごとに利率が見直される」「市場の長期金利に基づいて変動する」という特徴があります。金利が上昇すれば利払いも増えますが、金利が下がると利払いも減るため、固定利付債とは異なるリスクを伴います。
物価連動債
物価連動債は、物価の変動に応じて元本と利払い額が変動する特殊な債券です。物価上昇(インフレ)が進むと元本が増加し、それに応じて利払い額も増えます。物価下落(デフレ)が進むと元本が減少するが、最低元本額(フロア)は保証されます。日本では、主に10年物の物価連動債が発行されています。インフレ時の資産価値保全に適した投資商品ですが、デフレリスクや市場流動性の低さに注意が必要です。
物価連動債の仕組みと利回りの考え方
物価連動債は、物価上昇率(インフレ率)に連動して元本や利払い額が調整される特殊な債券です。ここでは、物価上昇率(インフレ率)をどのように捉えて、元金や利回りが変動していくのか、その仕組みを解説します。
物価連動債の仕組み
物価連動債(インフレ連動債)は、物価上昇率(インフレ率)に応じて、元本が調整される債券です。物価上昇に連動して元本が増加するため、利払い額や償還額も増加します。つまり、インフレが発生しても実質的な価値が低下しない債券と言えます。
日本では、財務省が物価連動国債を発行しており、全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数:コアCPI)の動きに応じて、元金額や利払い額が増減します。
消費者物価指数(CPI)とインフレ率
消費者物価指数(CPI)は、物価の変動を測る指標で、家庭が購入する消費財やサービスの価格を総合した物価の変動を時系列的に測定するものです。物価連動債に関係するのは、消費者物価指数(CPI)から生鮮食品を除いた総合指数である「コアCPI」です。
生鮮食品は価格変化が大きいため、それを除くことで、物価の状況を正確に計測できるとされています。物価連動債が、コアCPIの動きに応じて変化するのは、物価の変化を正確に捕捉することで、債券の価値と物価の連動性を高めるためです。
物価連動債の利回りとコアCPIの関係
物価連動債は、元金額が物価(生鮮品を除く全国消費者物価指数=コアCPI)の動きに連動して増減します。具体的には、コアCPIが1年後に2%上昇した場合、元金額も同じ率で増加します。この変動した元金額を「想定元金額」と呼びます。表面利率(年利子率)は償還まで同じですが、想定元金額が増えるため、受け取る利子も多くなります。
物価連動債のメリット
物価連動債は、インフレによる資産価値の減少を防ぐ有力な選択肢として注目されています。これは物価(コアCPI)に直接連動し、インフレが進行すると元金額と利子が増加するためです。さらに、デフレ時にも「フロア」と呼ばれるセーフティーネットが設けられており、元本が保証されています。
以下それぞれについて説明します。
- インフレに強く資産が目減りしない
- デフレ時にも元本保証のセーフティネット「フロア」がある
インフレに強く資産が目減りしない
物価連動債はインフレによる資産価値の減少を防ぐことができます。物価(コアCPI)と直接的に連動しているため、インフレが進行しても元金額と利子が増加します。通常、各国の政府・中央銀行は2%程度のインフレ率を狙って政策を調整しています。2%のインフレが5年続くと10%、10年続くと21%の変化になります。固定金利の一般国債だと、10年で元本の価値が21%下落することになり、利回りが悪くなります。しかし、物価連動債だと物価と連動しているため、良い利回りで運用することが出来ます。
デフレ時にも元本保証するセーフティーネット「フロア」
「フロア」とは、物価連動債に組み込まれた元本保証の仕組みです。
物価連動債は、物価上昇時、つまりインフレの時にはプラスのインフレ率に連動して元本価格が上昇します。一方で、物価下落時、つまりデフレの時にはマイナスのインフレ率に連動して元本価格が下がっていきます。
フロアは、デフレにより物価連動債の元本価格が下落した時でも、額面金額が元本割れしないように設定された下限額です。「最低保証額」と言い換えることもできます。
フロアがあることで、物価連動債へ投資した人の、物価下落による元本の減少リスクをある程度緩和することができます。
通常、物価の持続的な下落、つまりデフレにならないように各国は動いていきます。しかし、政策の失敗など特殊なケースにおいてはデフレが発生します。インフレ・デフレによる不利益が極力発生しないように設計されているのが物価連動債です。
物価連動債のデメリット
実質的な元本保証がありインフレに強い物価連動債ですが、インフレ・デフレリスクに焦点を当てた結果発生したデメリットも存在します。
- 金利変動の耐性がない
- 既発債の場合元本が欠損する可能性
- BEIより低いインフレ率だと不利
- 購入単位が大きい
以下で詳しく説明します。
金利変動の耐性がない
物価連動債はインフレに対する耐性はありますが、金利が上昇した場合、債券価格は下がります。通常時には2%程度のインフレ率を狙って各国の政府・中央銀行は動いています。しかし、戦争や災害などの要因により、急に高いインフレ率になる事も起こりえます。インフレ率の過剰な上昇を食い止めようと政策金利の上昇が起こることも。その際は、インフレ率と金利のバランスによって物価連動債の価格も左右されます。
既発債の場合元本が欠損する可能性
物価連動債は償還時にはフロアによって額面を下回ることはありません。しかし、購入時の単価によっては、元本が欠損する可能性があります。損益分岐点がどこにあるのかを計算し、元本割れを防ぐ必要があります。
BEIより低いインフレ率だと不利
物価連動債はインフレ率が高いほど利回りが高くなります。一方でインフレ率が低いと、利回りも低くなり一般国債より不利なケースが発生してきます。BEIよりインフレ率が低い場合一般債券の方利回りが良いことが多いです。
購入単位が大きい
物価連動国債の購入単位は額面金額ベースで10万円からと設定されています。個人向け国債が1万円から購入可能なため、物価連動債の方が比較的大きな単位で購入する必要があります。
通常の固定利付き国債と物価連動債どちらが有利?判断指標「ブレークイーブンインフレ率」
ブレークイーブンインフレ率(BEI:Break Even Inflation rate)は、物価連動国債と通常の固定利付国債の間で、どちらがより良い投資であるかを判断するための指標です。物価連動国債の利回りと同じ残存期間の固定利付国債の利回りの差によって以下の式で計算されます。
BEI = 固定利付国債利回り(名目金利) − 物価連動国債利回り(実質金利)
ブレークイーブンインフレ率は、物価連動国債の売買参加者が予測する今後のインフレ率を示しています。つまり、市場がどの程度の物価上昇(インフレ)を見込んでいるかを示すデータです。
ブレークイーブンインフレ率がプラスの場合は、市場が今後インフレになると考えており、マイナスの場合は、市場が今後デフレになると考えていることを示します。
各国の中央銀行(日銀・FRBなど)は、ブレークイーブンインフレ率の変動を把握し、予想インフレ率の目標値を定めて金融政策を行うことが多いです。
まとめ
物価が上昇していくと、預金や債券の実質的な資産価値は下がっていくことが、不安要素の1つに挙げられます。
そんななかで、物価連動債は、インフレ率に連動して元本や利払い額が調整されるため、インフレによる資産価値の減少を防ぐ有力な選択肢の一つです。物価(コアCPI)に直接連動し、インフレが進行すると元金額と利子が増加するメリットがあります。また、デフレ時にも「フロア」と呼ばれるセーフティーネットが設けられており、元本が保証されているのも大きな特徴です。
一方で、金利変動リスクや既発債の元本欠損の可能性、BEIより低いインフレ率での不利益、比較的大きな購入単位など、注意すべきデメリットも存在します。
物価連動債は、インフレ・デフレのリスクをバランスよくカバーする投資商品ですが、自身のリスク許容度や投資目的に合致しているかを慎重に検討する必要があります。ブレークイーブンインフレ率(BEI)などの指標を活用し、市場予測と照らし合わせながら、適切な投資判断を下すことが肝要です。
資産運用初心者の方は、物価連動債の仕組みやメリット・デメリットを十分に理解し、自身のポートフォリオにどのように組み込むべきかを慎重に検討してみてください。必要に応じて、金融のプロにアドバイスを求めることも有効な方法の一つです。

MONO Investment
投資のコンシェルジュ編集部は、投資銀行やアセットマネジメント会社の出身者、税理士など「金融のプロフェッショナル」が執筆・監修しています。 販売会社とは利害関係がないため、主に個人の資産運用に必要な情報を、正確にわかりやすく、中立性をもってコンテンツを作成しています。
投資のコンシェルジュ編集部は、投資銀行やアセットマネジメント会社の出身者、税理士など「金融のプロフェッショナル」が執筆・監修しています。 販売会社とは利害関係がないため、主に個人の資産運用に必要な情報を、正確にわかりやすく、中立性をもってコンテンツを作成しています。
関連記事
関連質問
関連する専門用語
物価連動国債
物価連動国債は、元本を全国消費者物価指数(コアCPI)に連動させ、実質固定利率を調整後元本に掛けて利息を計算する国債です。たとえば表面利率0.2%の10年債なら、物価が2%上昇して元本が102円に増えれば利息も0.204円に増えます。逆にデフレが進んでも元本は額面100円を下回らないフロアが設けられており、元本毀損は限定的です。ただしCPIは公表にタイムラグがあり、発行から利払いまで概ね3か月遅れて反映されるため、急激なインフレ局面では追随がやや遅れます。 税制上は名目利息に加え、元本調整で増えた分も利子所得として課税されるため、実質利回りより手取り利回りが低くなる傾向があります。また日本の物価連動国債市場は発行量が少なく流動性が限られるため、価格が振れやすい点にも注意が必要です。 投資判断では、同じ年限の名目国債利回りとの差で算出するブレークイーブン・インフレ率を確認し、市場が織り込むインフレ期待と照らして割高・割安を見極めます。インフレヘッジの有力手段である一方、指数ラグや流動性、税務コストも踏まえ、ポートフォリオ全体の資産配分を検討することが大切です。
全国消費者物価指数(コアCPI)
日本の物価動向を示す指標で、消費者が購入する商品やサービスの価格変動を測る。物価連動債では、生鮮食品を除いた総合指数(コアCPI)に基づいて元本や利払い額が調整される。
ブレークイーブンインフレ率(BEI)
ブレークイーブン・インフレ率(BEI)は、同じ残存期間の固定利付国債(名目債)の利回りから物価連動国債(実質債)の利回りを差し引いた値で、市場が織り込む平均インフレ率を示す“温度計”です。たとえば10年債で名目2.0%、実質0.8%ならBEIは1.2%となり、「今後10年間で年平均1.2%の物価上昇」が示唆されます。代表年限は5年と10年で、短期・長期の水準差を見るとインフレ期待の強弱が読み取れます。 BEIが上昇するとインフレ懸念が強まり、物価連動債やコモディティ、REITなど実物資産が相対的に有利になる可能性があります。逆に低下、あるいはマイナス圏入りはデフレ懸念を映し、長期固定債やキャッシュ比率を高める判断材料になり得ます。ただし流動性の乏しさやインフレリスクプレミアムの影響で、BEIは純粋な期待インフレ率から数十bp乖離することもあります。米国TIPS、欧州ILB、日本JGBiの水準を横比較し、中央銀行の見通しや原油価格と併せて確認すると、より立体的にインフレ動向を把握できます。
変動利付国債
市場金利の変動に応じて利率(クーポン)が変動する国債。一定期間ごとに利率が再設定され、金利上昇時には利払い額が増加するが、金利が低下すると利払い額も減少する。
市場金利
債券市場や銀行間取引で決定される金利のこと。市場金利が上昇すると、既発債の価格は下落し、逆に市場金利が低下すると債券価格は上昇する。物価連動債の価格にも影響を与える要因となる。
国債
発行体が各国中央政府の債券を国債といいます。発行目的や利払い方式などで種類が分別されます。中央政府に資金需要が発生した際に、国債を発行して資金の調達を行うことがあります。 投資家は国債を購入することで、発行体である中央政府へ資金を提供し、その見返りとして半年に1回などのペースで、中央政府から利子を受け取ります。償還期限までに中央政府の財政が悪化するなど、債務が履行されない状況に陥らなければ、満期には額面どおりの金額が投資家へ償還される仕組みです。 国債には、固定利付国債、変動利付国債、物価連動国債などがあります。
円貨建て債券
円貨建て債券とは、日本円で元本や利息が支払われる債券のことをいいます。日本国内の企業や政府が発行するだけでなく、海外の発行体が日本円で発行する場合も含まれます。投資家にとっては、為替変動の影響を受けにくいため、リスクを抑えた運用がしやすいというメリットがあります。一方、発行体にとっては、日本市場から円建てで資金を調達できる手段のひとつです。円貨建て債券は、特に日本国内の投資家にとって、通貨の変動リスクを避けながら安定的な収益を期待できる商品として利用されています。
応募者利回り
応募者利回りとは、主に個人向け国債などの公募債に応募した投資家が実際に得られる利回りのことを指します。これは、債券が発行される際に決まった価格や利率をもとに計算され、実際に購入したときの条件に基づいて得られる収益の割合を示します。たとえば、応募時の価格が額面と異なる場合や、利率が変動する場合には、表面的な利率だけでなく、実際の利回り(応募者利回り)を確認することが重要になります。この利回りを知ることで、投資家は自分が受け取る収益をより正確に把握することができ、他の金融商品と比較する際にも参考になります。
金融緩和
金融緩和とは、景気が悪化したときに、中央銀行が金利を引き下げたり、市場にお金を多く供給したりすることで、経済活動を活発にしようとする政策のことです。 たとえば企業が資金を借りやすくなったり、消費者がお金を使いやすくなったりすることで、物やサービスの需要が増え、景気の回復を後押しします。日本では長引くデフレへの対応として、日銀がゼロ金利政策や量的緩和を行ってきました。 金融緩和は、物価を安定的に引き上げたり、雇用の改善を図ったりするために使われますが、その一方で、資産バブルの形成や円安などの副作用が生じることもあります。資産運用の観点からは、金融緩和が続く局面では株価が上昇しやすくなる傾向があるため、政策動向に注目することが大切です。
クーポン(利息)
クーポンとは、債券を保有している投資家が発行体(国や企業)から定期的に受け取る利息のことです。クーポンの金額は、債券発行時に設定された利率(クーポン利率)に基づき計算されます。通常、半年ごとまたは1年ごとに支払われることが多いです。クーポン収入は安定したキャッシュフローをもたらし、特に長期保有する債券投資家にとって重要な収益源となります。