
格付け会社・格付け機関とは?日本の登録格付け会社一覧と特徴を徹底解説
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公開:
2023.11.21
更新:
2025.06.11
「格付け」という言葉に馴染みがなくても、Amazonの星評価や食べログのスコアなら見たことがあるのではないでしょうか。投資の世界にも同じように、第三者が企業や国の「信用力」を評価し、投資判断の指標とする「信用格付け」があります。とくに社債投資では、返済の確実性を見極めるために欠かせない視点です。本記事では、格付けの仕組みや各社の評価基準、記号の意味から格付け差の背景まで、実例を交えてわかりやすく解説。信用リスクを“自分で読み解ける”ようになりたい方にとって、最初の一歩となるはずです。
サクッとわかる!簡単要約
この記事を読むことで、格付けとは何かを知るだけでなく、どのように自分の投資判断に役立てるかまで実感を持って理解できます。企業の信用力を示す格付けの意味や、各格付け機関の評価プロセス、記号の違いを読み解けるようになることで、「利回りが高いのはなぜか」「どの債券が本当に安心なのか」といった問いに自ら答えを出せる力が養われます。また、ソフトバンクや楽天など実例を通じて格付けの活用場面を学ぶことで、格付けをただ「見る」ものから「使いこなす」判断軸へと変えていくことができます。
格付けとは?信用格付けの重要性と役割
「格付け」という言葉を聞いたことはありますか?お正月のテレビ番組の「芸能人格付けチェック」が思い浮かぶかもしれませんね。この番組では、芸能人自身が本物を見極めることができるかどうかによって、一流、二流などの格付けが決まります。
本記事で取り扱うのは金融分野の「格付け」です。芸能人格付けチェックとは違い、第三者が国や企業を評価し「格付け」します。最近の経済系ニュースでも、米国の大手格付会社がアメリカ国債の最上級評価を見直すのではないか、と話題になりました。
金融分野以外でも「格付け」が行われている身近な例として、Amazonや食べログの星やスコアが挙げられます。これらも、第三者である利用者が、商品やサービスを評価した「格付け」です。
Amazonのレビューと違い、金融分野の格付けは企業分析の専門家、すなわち「アナリスト」によって行われます。このアナリストたちが所属する組織が「格付け機関」や「格付け会社」です。
債券の格付けとは?第三者のアナリストによる返済能力の「信用度」評価
日本国内で発行される普通社債の額は、2022年度で13兆円弱です。多くの企業、法人が社債を発行しています。実際に社債を購入する場合、何を基準に選ぶと良いでしょうか?その選択の手助けとして活用されるのが「格付け」です。
社債を購入する際、投資家にとって最も重要なのは、その債券が当初の約束通り返済されるかどうかです。社債を発行する法人は「発行体」と称されます。格付けは発行体の信用力をわかりやすく、比較しやすい形で記号化したものです。
金融分野には債券の他に株価に関する「格付け」も存在します。これは、特定の銘柄が今後、市場平均を上回る、または下回る可能性に関するアナリストの見解を示すものです。
株価に関する「格付け」では、その企業の成長性が評価のキーとなります。市場平均を上回る成長が期待される企業は高評価を受け、そうでない場合は低評価となります。
一方、債券の格付けでは、貸したお金が当初の約束通り返済されるかが焦点となります。返済能力の信用度を測ることから、「信用格付け」とも呼ばれます。
分析の中心はその会社の成長性よりも、どれだけ安定して返済のためのキャッシュフローを生み出せるか、生み出し続けられるか、という点に焦点を置いています。格付けを債券投資の参考にされる方は、この点をしっかりと理解しておくことが重要です。
格付けの確認方法についてはこちらのFAQもご参照ください。
格付けは投資判断にも利回り設定にも活用
格付けの意義を考えるために、格付けが存在しない社債市場を想像してみましょう。
債券を発行したい企業は、投資家たちに自らの事業の魅力を説明し、信頼を勝ち取る必要が生じます。
その反対に投資家は、投資の判断を下す前に、事業内容や財務健全性を詳しく調査・分析する必要に迫られるでしょう。このような過程には大きなコストがかかります。さらに、どの程度の利回りならば適切か、同時期に発行される別の会社の債券との比較から最も望ましい選択を判断する必要があります。
格付け機関による格付けは、これらの課題に対応しています。統一された評価基準を提供し、判断をしやすくする役割を持っています。
よりフォーマルな表現で説明すると、格付けには以下の3つの大きな役割があります。
①「投資家と発行体の間の情報のギャップ(情報の非対称性)」を解消
②投資家は、格付けを活用することで「情報の収集や分析にかかるコスト」を削減(参考: R&Iのホームページ)
③複数の債券を一元的に比較することで、利回りの妥当性を判断する「価格発見」機能
特に③の役割によって、格付けの高い債券ほど、返済される確率が高いことから利回りが低く、格付けが低い債券ほど返済されなくなる危険性が高いことから利回りが高くなります。
格付け会社の信頼度を測る指標についてはこちらのFAQもご参照ください。
主要な格付け会社・格付け機関の役割と特徴
ここからは実際に格付けを付与している主要な格付け機関についてみていきましょう。ある程度社債市場が整備された国には格付け機関が存在します。またこれから市場を整備しようとする国の金融当局は、格付け機関の育成、強化を政策課題の一つとしています。先に書いたような格付けの果たす役割の重要性が認識されているからです。
世界各国に格付け機関が存在する、と書きましたがここでは日本の金融当局に登録された5つの格付け機関を中心に見ていきたいと思います。
日本で活動する格付け会社
社名 | 事業開始 時期 | 本社 | 主要株主 | 日本法人の 格付け社数 (概数) | 特色 |
---|---|---|---|---|---|
R&I (格付投資情報センター) | 1979 | 東京 | 日経グループ (70%弱) | 700 | 1998年、二つの格付け会社が合併して現在に至る。大企業、公的セクターのカバー率が高い。 |
JCR (日本格付研究所) | 1985 | 東京 | 時事通信社 (30%弱) | 700 | 日本の格付け会社として唯一米国の認定格付け機関として登録。 |
Moody's | 1902 | ニューヨーク | NY上場 | 170 | 2000年、D&Pからスピンオフし、上場。格付け先等の総数は全世界で35000先以上。 |
S&P Global Rating | 1860 | ニューヨーク | S&P Global | 150 | 旧称Standard &Poor's。全世界9500社以上を格付け。 |
Fitch Rating | 1914 | ニューヨーク、ロンドン | Hearst | 40 | 1997年、Fitchと欧州に本拠を置くIBCAが合併し現在の姿に。金融機関の利用率は高い。 |
*各社HPを参考に筆者作成
日本の格付け会社を監督する、登録制度と要件
2010年、日本の金融庁は信用格付け業者(格付け機関)の登録制度を導入しました。この背景には、2000年代後半に米国でおきたサブプライムローン問題です。この問題は国際的な金融危機に発展しました。
何が起きたかというと、高い格付け(多くは最上級のAAA)が付与された債券が短期間に大幅に格下げされるか、デフォルトしました。それら債券を大量に保有していた有力金融機関が相次ぎ破綻、あるいは破綻の瀬戸際まで追い込まれたのです。
この時、格付け機関が十分な精査を怠って高評価を不適切に付与したことが一因と指摘され、その役割が世界的に議論されました。
その結果、2008年には証券市場の監督に関与する国際的な機関であるIOSCO(証券監督者国際機構)が「信用格付け機関の基本行動規範」を取りまとめました。これをもとに、2009年に日本では金融商品取引法が改正され、2010年には格付け機関の登録制度が導入されることになりました。
登録制度が始まった2010年には、国内系の格付け機関2社と外資系の3社(より正確には、これらの企業の日本法人)が登録を行いました。
この新しい法制度の主な目的は、格付け機関に以下のような義務を課すことで、その遵守を通じて格付けの品質と信頼性を維持、向上させることです。
- 誠実義務:格付け機関は公平かつ誠実に行動すること。
- 体制整備の義務:適切な体制や制度を持って、その運用を確実に行うこと。
- 禁止行為:特定の不正な行為や利益相反の可能性がある行為を禁止。
- 情報開示義務:格付けの基準や方法、その他の関連情報を公開し、透明性を確保すること。
これらの義務を通じて、格付け機関の信頼性や品質の向上が期待されています。
国際的な格付け機関比較(S&P・ムーディーズ・フィッチ)
Moody’s Investor’s service(以下ムーディーズ)、S&P Global Ratings(以下S&P)、Fitch Ratings(以下フィッチ)は、それぞれ100年以上の歴史を有する格付け会社で、総称してBig3とも呼ばれます。これらは発祥の米国のみならず、直接出資、地元資本との合弁、あるいは買収により設立した子会社を通して世界各地で格付け業務を行なっています。
S&P Global Ratingsの格付けとは?沿革と評価手法
S&Pは、1860年にHenry Poor氏が始めた鉄道債券の分析事業(1868年法人化)と、1906年にLuther Blake氏が創業したStandard Statistic社(鉄道以外の信用分析)が1941年合併、Standard & Poor’s Corp.となりました。1966年には大手出版社のMac-Grow Hill(のち、持株会社化しS&P Globalに改称)に買収されています。
現在では、世界128カ国に展開、アナリスト数1500名を擁し、格付けした対象債券の総額は46兆ドル、とHPには記されています。
S&Pの評価手法
S&Pは以下のようなプロセスで企業評価を行っています。
- 事業プロフィールの評価:まず、カントリーリスク(企業が事業を行う国のリスク)、産業固有のリスク、そして企業の市場での競争状況を分析します。これらは総称して事業プロフィールと呼ばれます。
- 財務プロフィールの評価:次に企業の財務状態を詳しく見ていき、借入金とキャッシュフロー(CF)のバランスを含む財務プロフィールを分析します。
- アンカー値の設定:事業プロフィールと財務プロフィールの評価に基づき、一次評価値であるアンカー値を設定します。
- 個別要因の調整:アンカー値に対して、多角化経営の度合いや資本構成などの企業固有の要因を調整し、スタンドアローン評価(企業自身の信用力評価)を導き出します。最近では、ESG(環境、社会、ガバナンス)要因も評価に含まれる傾向にあります。
- 追加要因の考慮:最終的に、企業が属するグループ全体の力や政府支援の可能性などの外部要因を考慮し、発行体格付けが決定されます。
Moody’s Investor’s service(ムーディーズ)とは?沿革と評価手法
ムーディーズは、1900年代初めにJohn Moody氏が開始した鉄道会社の債券の信用分析(と英字による記号化)を出発点とし、1914年に法人化しました。その後分析対象を次第に拡大していきます。
1958年にMoody氏は亡くりましたが、1962年には情報サービス大手のDun & Bradstreet (D&B) の傘下に入り、1970年代には発行体からの手数料を得る現在のビジネスモデルを確立。
2000年にはD&Bからスピンオフしてニューヨーク証券取引所への上場を果たしています。。
現在、全世界で40カ国以上に展開し、従業員数14000以上(アナリスト数ではない)、格付けした対象債券の総額は72兆ドル以上になる、と同社のHPには記されています。
ムーディーズの評価手法
ムーディーズは業種ごとに設定されたスコアカードを予備的評価に用いています。
スコアカードでは以下5項目が評価対象です。
①規模指標
②ビジネスモデルや競合状況、規制などといった要素で構成された事業プロファイル
③収益性
④レバレッジ(有利子負債EBITDA倍率など)
⑤財務方針
スコアカードをもとにそれ以外の評価要素、たとえば経営戦略、流動性、親会社、政府サポート、を加味して最終的な符号を決定する、としています。ESG要素もこの段階で考慮されます。
S&Pとムーディーズは機関投資家や社会から重要な情報源として評価
S&Pとムーディーズは、国際的なカバレッジを誇り、機関投資家にとって非常に重要な情報源です。投資家はポートフォリオ管理においてS&Pとムーディーズの格付けを大きく頼りにしており、その格付けは資本市場の基準の一つとなっています。特に、米国内で債券を発行する際には、S&Pまたはムーディーズからの格付けを取得することが、事実上の起債要件と見なされています。できれば、これら両社からの格付けを取得することが好まれます。
Fitch Ratings(フィッチ)の格付けとは?沿革と特徴
フィッチは、1914年にJohn Fitch氏らが創業したFitch Publishing Companyが母体となり発展しました。1997年にはロンドンを基盤に主として金融機関を対象に格付けしていたIBCAと合併、IBCA-Fitchとなりました(その後現社名に改称)。
金融機関を中心におよそ8000先の発行体をカバーしています(フィッチ社HPより)。
フィッチは機関投資家や社会から金融機関の情報源として評価
カバレッジがS&Pやムーディーズと比べると、やや見劣りすることから率直に表現すると米国では、「あればなおよい」といった位置づけのようです。
ただし、金融機関のカバレッジが高いことから金融機関には広く利用されています。
日本の格付け会社(R&I・JCR)の特徴比較
日本における格付け制度は1980年代に始まります。83年に日本の金融市場自由化に向けた日米円ドル委員会が設置、この中で米国側から格付け制度導入が強く要請されました。翌年末には格付け機関設置に向けた報告書が大蔵省中心にまとめられ、85年、国内格付け会社が3社、立ち上げられるに至ります。
格付投資情報センター(R&I)とは?沿革と評価手法
格付投資情報センター(R&I)は、1985年に日本興業銀行(現みずほ銀行)など邦銀、証券会社を中心に立ち上げた日本インベスターズサービスと、日本経済新聞が79年に立ち上げていた日本公社債研究所が98年に合併して誕生した会社です。現在は日経グループが過半出資し、残りは金融機関が広く保有しています。
国内法人を中心に約800社を格付け。大企業、政府系機関など大規模発行体のカバー率が高いことから起債にあたっての利用率が高いことが特徴です。
R&Iの評価手法
R&Iでは格付け対象企業のリスクを事業リスク、と財務リスクの双方を分析対象とします。前者は将来CFがどの程度安定的なのか、それとも変動しやすい性格なのか、を主力事業の業界リスクと個別企業の訂正要因が評価対象です。財務リスクは借入とCFのバランスや、自己資本の充実度といった定量的な要因を主に確認します。
事業リスクが大きくなればなるほど、財務リスクはより高い水準が求められ、逆に事業リスクがあまり高くない、となれば財務上の安定性はそこまでは必要ない、といった関係にあります。
二社が合併して誕生したことで、日本企業のカバレッジはR&Iが最も高い、という時期が長く続きました。近年はJCRの頑張りもあって格付け先数は拮抗していますが、海外案件は外資格付け会社を参照しても国内企業はR&Iをまず参照する、という機関投資家が多いようです。
日本格付研究所(JCR)とは?
日本格付研究所(JCR)は、85年に長期信用銀行(現SBI新生銀行)や生損保が中心となって設立されましたが、現在は時事通信社が筆頭株主です。国内系では唯一、米国の認定格付機関(NRSRO)となっています。JCRも国内法人を中心に、約800社を格付けしています。
格付けに使われる記号の意味と見通し評価(アウトルック)を比較する方法
格付け会社のつけた信用格付けの比較方法と格付け記号の読み方
ムーディーズを除く4社の格付け符号は、最上級のAAAから始まり、以下AA、 A、BBB(AA格以下にはプラス、マイナスの記号が添えられます)と続きます。
ムーディーズはAaa、Aa、A、Baaとつづき、プラスマイナスではなく、1〜3の数字を用いているところが異なります。
なお格付けの刻み、たとえばAAA、AA+、AA、AA-…と続きますが、この一段階ごとを1ノッチと表現します。
(長期)発行体格付けの定義
格付 | R&I | S&P(抜粋) | ムーディーズ |
---|---|---|---|
AAA/Aaa | 信用力は最も高く、多くの優れた要素がある。 | 債務者がその金融債務を履行する能力は極めて高い。S&Pの最上位の発行体格付け。 | 信用力が最も高いと判断され、信用リスクが最低水準にある債務に対する格付。 |
AA/Aa | 信用力は極めて高く、優れた要素がある。 | 債務者がその金融債務を履行する能力は非常に高く、最上位の格付け(「AAA」)との差は小さい。 | 信用力が高いと判断され、信用リスクが極めて低い債務に対する格付。 |
A | 信用力は高く、部分的に優れた要素がある。 | 債務者がその金融債務を履行する能力は高いが、上位2つの格付けに比べ、事業環境や経済状況の悪化の影響をやや受けやすい。 | 中級の上位と判断され、信用リスクが低い債務に対する格付。 |
BBB/Baa | 信用力は十分であるが、将来環境が大きく変化する場合、注意すべき要素がある。 | 債務者がその金融債務を履行する能力は適切であるが、事業環境や経済状況の悪化によって債務履行能力が低下する可能性がより高い。 | 中級と判断され、信用リスクが中程度であるがゆえ、一定の投機的な要素を含みうる債務に対する格付。 |
BB/Ba | 信用力は当面問題ないが、将来環境が変化する場合、十分注意すべき要素がある。 | 債務者は短期的にはより低い格付けの債務者ほど脆弱ではないが、高い不確実性や、事業環境、金融情勢、または経済状況の悪化に対する脆弱性を有しており、状況によってはその金融債務を期日通りに履行する能力が不十分となる可能性がある。 | 投機的と判断され、相当の信用リスクがある債務に対する格付。 |
B | 信用力に問題があり、絶えず注意すべき要素がある。 | 債務者は現時点ではその金融債務を履行する能力を有しているが、「BB」に格付けされた債務者よりも脆弱である。事業環境、金融情勢、または経済状況が悪化した場合には、債務を履行する能力や意思が損なわれやすい。 | 投機的とみなされ、信用リスクが高いと判断される債務に対する格付。 |
CCC/Caa | 信用力に重大な問題があり、金融債務が不履行に陥る懸念が強い。 | 債務者は現時点で脆弱であり、その金融債務の履行は、良好な事業環境、金融情勢、および経済状況に依存している。 | 投機的で安全性が低いとみなされ、信用リスクが極めて高い債務に対する格付。 |
CC/Ca | 発行体のすべての金融債務が不履行に陥る懸念が強い。 | 債務者は現時点で非常に脆弱である。不履行はまだ発生していないものの、不履行となるまでの期間にかかわりなく、S&Pが不履行は事実上確実と予想する場合に「CC」の格付けが用いられる。 | 非常に投機的であり、デフォルトに陥っているか、あるいはそれに近い状態にあるが、一定の元利の回収が見込める債務に対する格付。 |
D/C | 発行体のすべての金融債務が不履行に陥っているとR&Iが判断する格付。 | 債務者が全面的に債務不履行に陥り、すべて、または実質的にすべての債務の支払いを期日通り行わないとS&Pが判断する場合に付与される。 | 最も格付が低く、通常、デフォルトに陥っており、元利の回収の見込みも極めて薄い債務に対する格付。 |
SD | なし | 債務者がある特定の債務または特定の種類の債務を選択して不履行としたものの、その他の債務については期日通りに支払いを継続するとS&Pが判断する場合に付与される。 | なし |
格付け様式 | AAからCCCまでには上位に近いものにプラス、下位に近いものにマイナスの記号が付加。 | AAからCCCまでにはプラス、マイナスの記号が付加。 | AaからCaaまでの格付けには1から3の数字が付加 |
*各社HPを参考に筆者作成
外資系と国内格付け会社の格付け格差
米国では従来、BBB格以上の企業が起債できるのが慣行として存在しました。(格付けの定義でBB格以下は投機的、とされたことでジャンク(くず)債との表現が用いられました。)
一方、日本では1985年の格付け制度導入時に当時の大蔵省が公募債は当面A格以上の企業が発行可能(適債基準)、としたことで、米系のBBB格が日本ではA格、とみなされ、実際の符号運営でも米系と国内系とでは平均で3ノッチ以上の開きが認められました。適債基準撤廃後、その格差は縮小傾向が認められますが、「代表的な企業の格付け」に示したようにやはり格差は認められます。
高リスク債への投資判断は以下の記事で詳しく解説しています
代表的な企業の格付け
社名 | R&I | JCR | S&P | Moody’s | Fitch |
---|---|---|---|---|---|
武田薬品 | A | A+ | BBB+ | Baa2 | |
ENEOS | A+ | AA- | Baa2 | ||
日本製鉄 | A+ | AA- | BBB+ | Baa2 | |
三菱重工 | A+ | AA- | BBB+ | ||
小松製作所 | AA- | A | A2 | ||
日立製作所 | AA | A | A3 | ||
パナソニック | A | A- | Baa1 | BBB- | |
トヨタ自動車 | AAA | AAA | A+ | A1 | A+ |
東京電力HD | A- | A | BB+ | Baaa3 | |
JR東海 | AA | AAA | A+ | A2 | |
三菱商事 | AA | A | A2 | ||
MUFG | A+ | AA- | A- | A1 | A- |
野村HD | A | AA- | BBB+ | Baa1 | A- |
日本生命 | AA | AA+ | A+ | A1 | A+ |
SBG | A | BB | |||
楽天G | BBB+ | A- | BB | ||
米国債 | AAA | AAA | AA+ | Aaa | AA+ |
日本国債 | AA+ | AAA | A+ | A1 | A1 |
(2023/8/31時点:空欄は格付け実施なし)
外資系格付け会社間、国内系格付け会社間の格付け格差
S&Pとムーディーズの間で格付け格差は小さく、日本企業を対象にした格付けについては平均で1ノッチ程度ですが、(フィッチについてはサンプル数が少ないので、比較が難しいです。)どちらかが一律に高い、ということはないようです。
一方、国内系のR&IとJCRについても1ノッチ程度の差がありますが、JCRがR&Iよりも1ノッチ上回る符号をつけているケースが多く認められます。
格付け格差は発生を前提に読み解くことが重要
格付けとはあくまで格付け機関の意見であり、各社の格付け基準などによって差異が生じるのはある程度当然です。
ただ、特に個人向けに発行された社債では発行体の側が「見栄え」も考慮して高い格付けのみを利用することも多いですので、投資家は上に書いたような違いがあることを認識しながら、複数の意見を吟味することが必要です。
アウトルック(格付けの見通し)と臨時検討(前提の変化への対応)
格付け各社は、符号と合わせてアウトルック(格付けの見通し)も公表しています。ほとんどの銘柄は安定的、ですが近い将来(おおむね1、2年)上がると想定している先についてはポジティブ、逆に下がると見込まれる場合にはネガティブ、としています。
格付けの変更を検討する材料が提示されているが、それが実際の数字を伴って現れるか、を見定め、投資家に対してのウォーニングとして用いています。
ハイブリッド債の格付けロジックについてはこちらのFAQもご参照ください。
似たものに、臨時検討があります。各社呼び方は違います(注)が、たとえば合併等でそれまでの格付けの前提が大きく変わる時、その影響を見定めるために用いられます。
通常、格付けの見直しサイクルは一年程度ですが、臨時検討の結果はおおむね半年内に公表されます。(注、たとえばR&Iではレーティングモニター、S&Pではクレジットウォッチ、といいます)
格付けの事例研究:国内企業比較と日米国債比較
ここでは、格付けの具体的な事例を取り上げます。ソフトバンクグループと楽天グループ、米国債、日本国債の4つを順に紹介します。
ソフトバンクグループ(SBG)の格付け
SBGに対しては、S&PがBB、JCRがAとの評価を行なっています(2023/8/31時点)。なお、ムーディーズの格付けは2020年の格下げ時の対応が不満として取り下げられており、またR&Iは通信業のソフトバンク(SB)に対してのみ格付けしています。S&Pの格付けとJCRとの間の6ノッチはあまりみない乖離幅です。
SBGは近年大きく業態を変えている会社で、特にSBをスピンオフ上場させてからは純粋な投資会社となりましたが、こうした業態への格付けはあまり事例が多くはなく、両社共に評価には苦労している印象です。ちなみにS&Pは借入と資産価値のバランス(LTV)と、投資資産のうち、上場している資産の割合を重視しているようです。
JCRは、2023年1月にポジティブとしていたアウトルックを安定的に下げましたが、株安に伴う運用損益の悪化を理由にしています。
S&Pは、2023年5月、BBに格下げしSBGの再検討要請に対しても9月にアウトルックこそポジティブに修正しましたが、格付けは据え置きました。SBGはこの決定に対し、重視している指標の改善を理由に再度反発しています。
S&Pの、数値改善が持続的なものか見定める時間が必要、とのスタンスはやや慎重な印象もありますが、SBGが何度も大型投資で財務数値を悪化させてきた歴史を考えると理解できるところでもあります。
楽天グループの格付け
S&PがBB、これに対してR&IはBBB+、JCRはA-と評価しています。ただ、いずれもモバイル事業の赤字が大きいことからこの1、2年で1ノッチ格下げされており、アウトルックもいずれもネガティブです。この中ではR&IがA格からBBB格へ変更したことでの影響が大きかったようです。機関投資家の中には社債の保有基準をA格以上、と定めているところがある(昨今の運用難で見直した投資家も多いとは聞いてますが)ためで、そうした先は保有債を売却するなどポートフォリオの見直しの必要に迫られます。
個人投資家も機関投資家がそうした動きをする可能性があることは認識されておいた方が良いかもしれません。
米国債の格付け
米国内の投資家にとって米国債とはリスクフリー資産であり、すべての社債はリスクに応じて、米国債の利回りにどれくらいのスプレッド(上乗せ金利)を乗せるかが決まります。社債投資の基軸であり、従って最上級の格付けが付与されて違和感はないのですが、2011年のS&Pに続いて、2023年Fitchが格下げ、唯一Aaaを維持しているMoody’sも連邦政府の閉鎖が懸念された9月には格下げを警告しました。
3社の論点は共通していて、政争で機能不全を起こしかねない政府のガバナンスは高く評価できない、というところかと思います。仮に政府機関が閉鎖されたとしても、国債の元利払いのような義務的経費までとまることはないのですが。
かつて筆者が某社のアナリストと議論した際、「AAAとAA+の会社に財務上で大きな差異はない。ただ、AAAの会社にはSomething specialがあるんだ」と言われたことがありますが、今の米国もspecialな要素を欠きつつあるのかもしれません。
日本国債の格付け
外資系各社は日本国債の格付けを財政悪化を理由に2010年代初めに相次いで格下げしました。現在ではすべてA格(A+/A1/A)にとどまっています。R&Iも2011年にAA+に下げましたが一方、JCRはAAAを維持、現在に至っています。
もっとも最後の格下げから約8年、格付け変更は起きてません。財政悪化が止まったわけではなくむしろコロナショックでさらに悪化したにもかかわらず、追加的なアクションもありません。日銀による超低金利政策が利払費の増加を抑制している、という点は格付けを維持している理由の一つかもしれませんが。
ここからは筆者の憶測に過ぎませんが、3社が争って格下げした結果(時に他社との競合でそうしたアクションに走ることはあります)、他の国とのバランスを損ないかねないところまで下げてしまったので、現在はむしろ修正できるタイミングを測っているが、そうした時がなかなかこない、というところではないか、と。
この記事のまとめ
本記事では、信用格付けの基本から、その意義、そして日本で活動する5つの主要格付け機関の特徴までを解説しました。同じ企業に対する評価でも、国内外の格付け機関によって見解が異なる「格付け格差」があることも、具体例を通じて確認いただけたかと思います。社債などの債券投資において、利回りだけでなく信用力という観点を取り入れることで、より納得度の高い資産判断が可能になります。これから債券を組み入れる方も、すでに保有している方も、一社の格付けだけに頼らず複数の視点を比較検討する姿勢が重要です。判断に迷ったときは、信頼できる専門家の助言を得ることも一つの選択肢として、冷静に視野を広げてみてください。

格付投資情報センター(R&I)の主任アナリストとして、主として国内外の金融機関や政府系機関など幅広い業種を担当。また調査部門も担当し、クライテリア(格付けの考え方)の整備にも尽力。
格付投資情報センター(R&I)の主任アナリストとして、主として国内外の金融機関や政府系機関など幅広い業種を担当。また調査部門も担当し、クライテリア(格付けの考え方)の整備にも尽力。
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格付け(信用格付け)
格付け(信用格付け)とは、取引をする際に参考にされる基準の一つで、取引の相手側の信用度を確認するために支払い能力や財務状況、安全性などを総合的にランク付けしたものである。アルファベットや数字で表されるのが一般的である。 (例)格付投資情報センター(https://www.r-i.co.jp/index.html) による発行体格付の定義 AAA:信用力は最も高く、多くの優れた要素がある。 AA:信用力は極めて高く、優れた要素がある。 A:信用力は高く、部分的に優れた要素がある。 BBB:信用力は十分であるが、将来環境が大きく変化する場合、注意すべき要素がある。 BB:信用力は当面問題ないが、将来環境が変化する場合、十分注意すべき要素がある。 B:信用力に問題があり、絶えず注意すべき要素がある。 CCC:発行体の金融債務が不履行に陥る懸念が強い。 CC:発行体の金融債務が不履行に陥っているか、その懸念が極めて強い。 C:発行体のすべての金融債務が不履行に陥っているとR&Iが判断する格付。
劣後債
劣後債とは、企業や金融機関が資金調達のために発行する債券の一種で、通常の社債(シニア債)よりも弁済順位が低い(劣後する)債券のことです。発行体が破綻した場合、一般の債券や他の債権者への支払いが優先され、劣後債の保有者への弁済はその後に行われるため、元本や利息の支払いリスクが相対的に高くなります。 このリスクの高さを補うため、劣後債は通常の社債よりも利回りが高めに設定されており、リスクプレミアムが反映されたハイリスク・ハイリターンの投資対象として位置づけられます。劣後債には、シニア劣後債とジュニア劣後債があり、ジュニア劣後債の方がさらに弁済順位が低いため、リスクが高くなる傾向にあります。 特に、金融機関が発行する劣後債の一部(例:AT1債やTier 2債)は、国際的な銀行規制であるバーゼル規制に基づき、一定の条件を満たせば自己資本として算入できるため、自己資本比率を向上させる手段として利用されています。ただし、AT1債(追加的Tier 1債)は発行体の財務状況によって利息の支払いが停止される可能性もあるため、リスクが高くなります。 投資家にとっては、高い利回りの魅力がある一方で、発行体の信用リスクや市場環境を十分に考慮した慎重な判断が求められる金融商品です。また、流動性が低く、満期前に売却が難しい場合がある点にも注意が必要です。
信用リスク(クレジットリスク)
信用リスクとは、貸し付けた資金や投資した債券について、契約どおりに元本や利息の支払いを受けられなくなる可能性を指します。具体的には、(1)企業の倒産や国家の債務不履行(いわゆるデフォルト)、(2)利払いや元本返済の遅延、(3)返済条件の不利な変更(債務再編=デット・リストラクチャリング)などが該当します。これらはいずれも投資元本の毀損や収益の減少につながるため、信用リスクの管理は債券投資の基礎として非常に重要です。 この信用リスクを定量的に評価する手段のひとつが、格付会社による信用格付けです。格付は通常、AAA(最上位)からD(デフォルト)までの等級で示され、投資家にとってのリスク水準をわかりやすく表します。たとえば、BBB格付けの5年債であれば、過去の統計に基づく累積デフォルト率はおおよそ1.5%前後とされています(S&Pグローバルのデータより)。ただし、格付はあくまで過去の情報に基づいた「静的な指標」であり、市場環境の急変に即応しにくい側面があります。 そのため、市場ではよりリアルタイムなリスク指標として、同年限の国債利回りとの差であるクレジットスプレッドが重視されます。これは「市場に織り込まれた信用リスク」として機能し、スプレッドが拡大している局面では、投資家がより高いリスクプレミアムを求めていることを意味します。さらに、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の保険料率は、債務不履行リスクに加え、流動性やマクロ経済環境を反映した即時性の高い指標として、機関投資家の間で広く活用されています。 こうしたリスクに備えるうえでの基本は、ポートフォリオ全体の分散です。業種や地域、格付けの異なる債券を組み合わせることで、特定の発行体の信用悪化がポートフォリオ全体に与える影響を抑えることができます。なかでも、ハイイールド債や新興国債は高利回りで魅力的に見える一方で、信用力が低いため、景気後退時などには価格が大きく下落するリスクを抱えています。リスクを抑えたい局面では、投資適格債へのシフトやデュレーションの短縮、さらにCDSなどを活用した部分的なヘッジといった対策が有効です。 投資判断においては、「高い利回りは信用リスクの対価である」という原則を常に意識する必要があります。期待されるリターンが、想定される損失(デフォルト確率×損失率)や価格変動リスクに見合っているかどうか。こうした視点で冷静に比較検討を行うことが、長期的に安定した債券運用につながる第一歩となります。
ハイブリッド証券
ハイブリッド証券とは、債券と株式の両方の特徴を併せ持つ金融商品で、資金調達の柔軟性を高めるために企業が活用することが多いです。債券のように定期的な利払いがある一方で、株式のように返済義務が劣後したり、発行企業の業績によって利払いが変動することがあります。 また、一定の条件下で株式に転換できるものもあり、投資家にとってはリターンが見込める一方で、リスクも高めです。企業にとっては、通常の借入や株式発行では対応しにくい状況でも、信用力や資本性を維持しながら資金を調達できる手段として重宝されます。とくに金融機関や格付機関の評価において、自己資本として一部認められるケースがあり、財務体質の強化にもつながります。
社債
社債とは、企業が事業資金を調達するために発行する「借金の証書」のようなものです。投資家は社債を購入することで企業にお金を貸し、その見返りとして、あらかじめ決められた利息(クーポン)を一定期間ごとに受け取ることができます。満期が来れば、企業は投資家に元本を返済します。 銀行からの融資とは異なり、社債は不特定多数の投資家から直接資金を集める方法であり、企業にとっては柔軟かつ効率的な資金調達手段です。 投資家にとって社債の魅力は、株式に比べて価格の変動が小さく、定期的な利息収入が得られる点にあります。一方で、発行体である企業が経営破綻した場合、元本が戻らないリスクがあるため、信用格付けや業績などを十分に確認することが重要です。 安定的な収益を目指しつつ、リスク管理も重視する投資家にとって、社債はポートフォリオの中核を担いうる資産クラスのひとつです。
証券化
証券化とは、もともと流動性の低い資産(すぐに現金化しにくい資産)をもとに、将来得られる収益を裏付けとして、投資家向けに売買可能な証券を発行する仕組みのことです。わかりやすく言えば、「資産を金融商品に変える」手法です。 たとえば、住宅ローンやオートローン、売掛金、不動産などから将来得られる返済や収入をまとめて、それを担保とした「資産担保証券(ABS)」を発行し、投資家に販売します。これによって、企業は本来すぐに現金化できない資産を活用して資金を調達できるようになります。 証券化された商品は、複数の資産をまとめて分散効果を持たせたり、信用リスクを分割・構造化することもできるため、機関投資家向けの高度な金融商品として発展してきました。一方で、2008年のリーマン・ショック時には、住宅ローン担保証券(MBS)の過剰な証券化が信用不安を拡大させた側面もあり、リスク管理の重要性も同時に認識されています。 証券化は、資産の有効活用・流動性向上・資金調達の多様化といった観点で、現代の金融市場における重要な金融技術のひとつです。
格付機関
格付機関とは、企業や国、債券などの信用力を評価し、「信用格付」と呼ばれる等級をつける専門の機関のことをいいます。信用格付は、投資家がその企業や国が借りたお金をきちんと返せるかどうかを判断するための重要な指標となります。たとえば、格付が高ければ「信用度が高く、返済の可能性が大きい」とみなされ、逆に格付が低ければ「リスクが高い」と判断されることになります。代表的な格付機関には、ムーディーズ、スタンダード&プアーズ(S&P)、フィッチ・レーティングスなどがあります。投資初心者にとっても、債券や企業の安全性を見極めるうえで、格付機関の評価はとても参考になります。
発行体
発行体とは、債券や株式などの金融商品を市場に出して資金を調達する側のことを指します。債券であれば、お金を借りる側であり、投資家から集めた資金を使って事業活動や設備投資などを行います。発行体には、国や地方自治体、企業、政府機関などさまざまな種類があります。投資家にとっては、発行体の信用力や財務状況がその金融商品の安全性や利回りに大きく影響するため、誰が発行しているのかをしっかりと確認することが重要です。信頼できる発行体であれば、安定した利息や元本の返済が期待できます。
利回り
利回りとは、投資で得られた収益を投下元本に対する割合で示し、異なる商品や期間を比較するときの共通尺度になります。 計算式は「(期末評価額+分配金等-期首元本)÷期首元本」で、原則として年率に換算して示します。この“年率”をどの期間で切り取るかによって、利回りは年間リターンとトータルリターンの二つに大別されます。 年間リターンは「ある1年間だけの利回り」を示す瞬間値で、直近の運用成績や市場の勢いを把握するのに適しています。トータルリターンは「保有開始から売却・償還までの累積リターン」を示し、長期投資の成果を測る指標です。保有期間が異なる商品どうしを比べるときは、トータルリターンを年平均成長率(CAGR)に換算して年率をそろすことで、複利効果を含めた公平な比較ができます。 債券なら市場価格を反映した現在利回りや償還までの総収益を年率化した最終利回り(YTM)、株式なら株価に対する年間配当の割合である配当利回り、不動産投資なら純賃料収入を物件価格で割ったネット利回りと、対象資産ごとに計算対象は変わります。 また、名目利回りだけでは購買力の変化や税・手数料の影響を見落としやすいため、インフレ調整後や税控除後のネット利回りも確認することが重要です。複利運用では得た収益を再投資することでリターンが雪だるま式に増えますから、年間リターンとトータルリターンを意識しながら、複利効果・インフレ・コストを総合的に考慮すると、より適切なリスクとリターンのバランスを見極められます。
格付け記号
格付け記号とは、企業や国、地方自治体などが発行する債券などに対して、格付機関が信用力を評価した結果をアルファベットなどの記号で示したものです。たとえば「AAA」「AA」「BBB」などの形式で表され、信用力が高いほど上位の記号が付けられます。投資家はこの格付け記号を参考に、債券がどれだけ安全か、リスクがあるかを判断します。 記号は機関によって多少異なることもありますが、一般的には「投資適格」とされるレベルと「投機的水準」に分類され、信用リスクの目安として広く利用されています。資産運用においては、格付け記号を見ることで、利回りとリスクのバランスを判断しやすくなります。
ノッチ
ノッチとは、格付け機関が企業や債券などに付ける信用格付けのなかで、その評価をより細かく段階づけるための単位を指します。たとえば、ある企業の格付けが「A」から「A−」に引き下げられた場合、「1ノッチ下がった」と表現されます。逆に「BBB+」から「A−」に格上げされた場合も、「1ノッチ上がった」という言い方をします。 ノッチは、一見すると小さな変化に見えるかもしれませんが、信用リスクの評価においては意味のある差とされており、とりわけ債券市場ではその影響が無視できません。わずか1ノッチの格下げであっても、利回りや取引条件、債券価格に影響を与えることがあり、投資判断の際に注目すべきポイントとなります。 また、格付けが投資適格(たとえばBBB−以上)から投機的水準(BB+以下)へと移行する境目では、1ノッチの差が機関投資家の保有制限や市場流動性に直結することもあります。そのため、格付け変更だけでなく、どの程度ノッチが動いたのかにも注目することで、より精度の高いリスク管理が可能になります。
投機
投機とは、将来の価格の変動を予測して利益を得ようとする行為のことを指します。価格が大きく動くことを期待して、短期間で売買を繰り返すのが特徴です。たとえば、株や仮想通貨などが値上がりすると思って買い、実際に値上がりした後にすぐ売って差額の利益を得ようとするような取引が該当します。投資との違いは、企業の成長や価値に注目するのではなく、あくまで値動きそのものを重視して利益を狙う点です。成功すれば短期間で大きな利益を得られることもありますが、反対に損失を被るリスクも高く、初心者には注意が必要なスタイルです。
債務不履行(デフォルト)
債務不履行(デフォルト)とは、企業や国などの債務者が、借入金や債券などの元本や利息の支払いを、契約どおりに履行できなくなる状態を指します。利払いの遅延や元本返済の停止が発生した時点で、デフォルトとみなされます。 債務不履行が発生すると、債券を保有している投資家は、予定されていた利息や元本の一部または全額を受け取れないリスクに直面し、損失を被る可能性があります。特に、国による債務不履行(ソブリン・デフォルト)は、為替市場や株式市場にも連鎖的な影響を与え、国際的な金融不安を引き起こす要因となることがあります。 また、支払いの一時的な遅延や手続上の不備によって形式的に契約違反が生じる「テクニカル・デフォルト」というケースも存在します。これは即時の経済的破綻を意味するわけではありませんが、発行体の信用力に対する警戒が強まるきっかけとなり得ます。 投資においては、こうしたデフォルトの可能性(デフォルトリスク)をあらかじめ評価し、債券の発行体の財務状況や格付、市場環境を踏まえてリスク管理を行うことが重要です。
アウトルック
アウトルックとは、信用格付機関が発行体(企業や国など)の将来の信用状況について、今後1~2年程度で格付がどの方向に変わる可能性があるかを示す見通しのことです。たとえば、「ポジティブ(改善方向)」「ネガティブ(悪化方向)」「ステーブル(安定的)」などの形で表され、現時点では格付が変わらなくても、今後変更される可能性があることを投資家に示唆します。 アウトルックは、格付そのものではありませんが、将来の信用リスクを予測するための重要な補足情報として使われます。債券投資や信用分析を行う際に、格付だけでなくアウトルックもあわせて確認することで、より立体的なリスク判断が可能になります。
クレジットウォッチ
クレジットウォッチとは、格付機関が企業や国などの信用格付を見直す可能性があると判断した際に、一時的に注視対象として指定する制度のことです。これは、格付の変更が近い将来に行われる可能性が高いことを投資家に知らせるためのもので、通常「引き下げ方向(ネガティブ)」や「引き上げ方向(ポジティブ)」、「方向未定(発行体の状況が不透明)」といった形で方向性が示されます。アウトルック(見通し)が1~2年程度の長期的視点であるのに対して、クレジットウォッチはより短期的な注視で、数週間から数か月以内の格付変更が想定されている場合に使われます。債券投資や信用リスク管理においては、格付そのものと同じくらい重要な注意喚起として扱われます。
カントリーリスク
カントリーリスクとは、ある国に関連した投資やビジネスを行う際に、その国特有の事情によって損失が生じるおそれのあるリスクのことをいいます。たとえば、政権交代や政治不安、戦争、法制度の変更、為替の急変、債務不履行(デフォルト)など、その国の経済的・政治的な状況によって投資の価値が大きく変動する可能性があります。 特に新興国では、このリスクが高いとされ、投資する際には慎重な情報収集と判断が必要です。カントリーリスクは個別企業の経営状況とは関係なく、その国全体の事情によって発生するため、海外投資や国際分散投資において注意すべき重要な要素です。
ESG
ESGは環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の略で、企業がこれらの観点で持続可能性に配慮しているかを評価する基準です。投資判断に活用され、社会的課題への関心が高まる中、注目されています。
レバレッジ
レバレッジとは、借入金や証拠金取引など外部資金を活用して自己資本以上の投資規模を実現する手法です。利益の拡大が期待できる一方、市場の下落や金利の変動で損失が膨らみやすく、追加証拠金(追証)が必要になる場合やロスカットが発生するリスクも高まります。 また、借入金利や手数料などのコストが利益を圧迫する可能性があるため、ポジション管理やヘッジ手法を含めたリスク管理が不可欠です。レバレッジによる損益変動幅が大きくなることで精神的な負担も増えやすい点にも注意が必要です。最終的には、投資目的やリスク許容度を考慮し、適切なレバレッジ水準を設定することで、資産運用の効率を高めつつリスクを抑えることが重要となります。
有利子負債
有利子負債とは、利息を支払う義務がある借入金や社債などの負債のことを指します。企業が銀行からお金を借りたり、社債を発行して資金調達を行った場合、その借金には利息を支払う必要があり、これが有利子負債にあたります。資産運用の場面では、企業の財務の健全性を判断するために有利子負債の額や返済能力が注目されます。借金が多すぎる企業は、景気の悪化時に財務リスクが高まる可能性があるため、投資判断において注意が必要です。
EBITDA
「Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization」(税引前利益に支払利息、減価償却費を加えて算出される利益)の略。国によって金利水準、税率、減価償却方法などが違うため、国際的企業の収益力は一概に比較することは出来ないが、EBITDAはその違いを最小限に抑えて利益の額を表すことを目的としているため、国際的な企業、あるいは設備投資が多く減価償却負担の高い企業などの収益力を比較・分析する際に用いられる。
スプレッド(Spread)
スプレッド(Spread)とは、金融商品の売値(ビッド:Bid)と買値(アスク:Ask)の差のことをいいます。主に外国為替市場や債券市場、株式市場などで使われる用語です。 ビッド(Bid)は投資家がその商品を「売るときに受け取れる価格」、アスク(Ask)は「買うときに支払う価格」を指します。スプレッド(Spread)が広いほど、投資家にとっての取引コストが高くなるため、売買のタイミングには注意が必要です。 一般的に、流動性の低い市場や銘柄ではスプレッドが広がりやすく、反対に、取引が活発な市場ではスプレッドが狭くなる傾向があります。そのため、スプレッドの大きさは、市場の流動性や取引コストを判断する一つの指標となります。
ローン・トゥ・バリュー比率(LTV:loan-to-value-ratio)
ローン・トゥ・バリュー比率(LTV)とは、不動産などの担保資産に対して、どのくらいの割合でローン(借入金)が組まれているかを示す指標です。具体的には、「借入額 ÷ 担保となる資産の価値 × 100」で計算され、たとえば1,000万円の不動産に対して800万円のローンを借りていれば、LTVは80%となります。 この比率が高いほど、資産に対する借入の割合が大きく、返済不能リスクが高まると見なされます。一方、LTVが低ければ、余裕を持ってローンを組んでいると判断されます。LTVは個人の住宅ローンだけでなく、不動産投資や企業の財務健全性の判断にも使われる重要な指標です。資産運用や投資のリスク管理においても、LTVを意識することで、過度な借入によるリスクを避ける判断材料となります。