
国内で個人投資家でも投資できる社債、ソフトバンクの社債を解説
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執筆者:
公開:
2025.03.10
更新:
2025.03.10
目次
実際のソフトバンクの個人向け社債を例に、その格付や利回りについて説明
ソフトバンクグループ及びソフトバンクで個人向けに発行された債券
ソフトバンクグループ無担保社債(愛称、福岡ソフトバンクホークスボンド)
ソフトバンク無担保社債(愛称、ソフトバンクみらい創出ボンド)
国内ではソフトバンクが個人向けに社債を発行する企業として知られています。ソフトバンクはどのような個人向け社債を発行しているのでしょうか?こちらの記事では国内の社債及び社債市場について基礎的な知識を紹介するとともに、過去に発行されたソフトバンク社債の内容及びソフトバンク社債に投資する際の注目ポイントを紹介します。
社債とは
社債とは、企業が投資家からまとまった資金を調達するために発行する債券の一種です。社債を発行することで、企業は銀行融資に頼ることなく金融市場を通じて直接投資家から資金を借り入れることができます。
一方、投資家は社債の購入により5年など一定期間資金が拘束(企業に貸出)されるものの、拘束期間中は事前に決められた利息が得られます。社債は銀行預金よりも高い利息が得られることがほとんどです。このため、社債は安定的に銀行預金以上の利息収入が得られる有力な資産運用先となります。
社債の基礎知識
ソフトバンクの社債について詳細を説明する前に、社債の基礎知識として①国内で個人向けに発行される社債は限定的、②銀行預金と異なりリスクがある、③信用度で金利が変わる、という点を取り上げます。
個人向けに発行される社債は限定的
社債は金融商品として特別な商品ではありません。しかし国内では、個人向けに発行される社債は数が限られています。米国では個人向け社債の発行も一般的ですが、国内で発行される社債のほとんどは機関投資家向けです。このため個人投資家が社債に投資する機会は限られています。
銀行預金と異なりリスクがある
社債は投資家から企業に対する貸付です。国内で社債を発行する企業は大手企業がほとんどですが、それでも過去には社債発行企業の経営破綻が生じています。社債の発行企業が経営破綻すると、投資家は損失計上を余儀なくされます。一方で個人の銀行預金の場合、1,000万円までは預金保険の対象でありリスクがありません。社債は銀行預金と違いリスクある投資です。
信用度で金利が変わる
社債を発行する企業は、格付け会社から格付けを取得することがほとんどです。そしてその格付に基づき、金利などの発行条件が決められます。財務内容良好など、格付けが高く信用度のある企業の社債の金利は低い一方、借入金が多いなど財務状況に懸念がある企業の格付けは低くなり、社債の金利は高くなります。
投資家の視点では、同じ期間の社債なら高金利の社債が魅力的です。しかし、高金利の社債はリスクが低金利の社債に比べると高い、という点は理解する必要があります。
ソフトバンク社債が注目される理由を簡単に説明
ソフトバンクは国内で個人向け社債を積極的に発行する企業として知られています。社債の多くが機関投資家向けに発行される日本では、個人投資家がコンスタントに投資できる社債(特に新規発行される新発債)は実質的にソフトバンクに限られる状態です。
ソフトバンクの社債が注目される理由としては、①コンスタントに個人向けに発行される、②銀行預金に比べ高い利回り、③抜群の知名度、の3点があげられます。
コンスタントに個人向けに発行される
国内の社債市場は機関投資家中心の市場です。このため個人向け社債の発行は限られています。鉄道会社などが単発で個人向け社債を発行することはありますが、コンスタントに同じ企業が個人向け社債を発行するケースは限られます。
その中でソフトバンクは日本で個人向け社債をコンスタントに発行する稀有な企業です。発行されること自体が少ない個人向け社債は、人気化しやすい金融商品でもあります。ソフトバンク社債は個人向けにコンスタントに発行されており、個人投資家から注目を集める金融商品です。
銀行預金に比べ高い利回り
2024年4月、日銀はマイナス金利政策を終了し、7月には利上げを実施しました。その結果、日本でも金利のある環境が戻り、2025年1月にも追加の利上げが行われました(この時点での政策金利は0.5%)。
日銀の利上げに伴い、銀行の預金金利も上昇傾向にありますが、ソフトバンクの社債に投資すると、銀行預金よりも高い金利収入を得ることができます。例えば、2024年10月に発行された 「ソフトバンク株式会社 第2回社債型種類株式」 は、ほとんどの銀行の1年定期預金の金利が1%未満であるのに対し、実質的な金利が 3.2% となっています。
このように、毎年安定した収益が期待できるソフトバンクの社債は、特に安定した収入を求める投資家にとって魅力的な金融商品といえます。
抜群の知名度
ソフトバンクは携帯電話事業を展開し、さらにプロ野球チーム「ソフトバンクホークス」を所有するなど、広く知られた企業です。そのため、ソフトバンクやその親会社であるソフトバンクグループ、代表の孫正義氏の名前は非常に有名です。
一般的に、あまり知られていない企業の社債には投資をためらう人も多いですが、知名度の高い企業なら「よく知っているから安心では?」という心理が働き、投資へのハードルが低くなる傾向があります。ソフトバンクは多くの人に知られている企業であるため、投資家から一定の信頼を得やすいと言えます。
ソフトバンクのグループについて
「ソフトバンク」と聞くと、多くの人は携帯電話の会社を思い浮かべるでしょう。実際、携帯電話事業を行っている「ソフトバンク株式会社」(証券コード:9434)は、東京証券取引所に上場している企業です。
しかし、この「ソフトバンク株式会社」は、親会社である「ソフトバンクグループ株式会社」(証券コード:9984)の子会社です。ソフトバンクグループは携帯電話事業だけでなく、投資事業を中心に行っている会社で、世界中のテクノロジー企業やスタートアップに投資しています。
また、社債に関しても、「ソフトバンク株式会社」と「ソフトバンクグループ株式会社」の両社が個人向けに発行しているため、どちらの社債なのかをしっかり確認することが重要です。一般的に、「ソフトバンク」と聞くと携帯電話会社を想像しがちですが、実際には両社の役割が大きく異なるため、投資を検討する際は十分な理解が必要です。
実際のソフトバンクの個人向け社債を例に、その格付や利回りについて説明
実際に発行されたソフトバンクの個人向け社債の内容を見てみましょう。
項目 | 内容 |
---|---|
社債名 | ソフトバンク株式会社 第2回社債型種類株式」 |
銘柄コード | 94346 |
発行日 | 2024年10月3日 |
上場日 | 2024年10月4日(東京証券取引所プライム市場) |
発行価格 | 8,000円/株 |
発行総数 | 25,000,000株(2,000億円) |
配当 | ~2030年3月31日:固定配当 年率3.200% 2030年4月1日~2050年3月31日:変動配当 基準金利+2.960% 2050年4月1日以降:変動配当 基準金利+3.710% |
議決権 | なし |
普通株式への転換権 | なし |
取得条項 | 発行から5年後以降、会社が発行価格相当額で取得可能 |
ソフトバンクグループ、ソフトバンクともに通常型の社債も発行していますが、独特の社債を発行した携帯電話事業を手がけるソフトバンクの社債を取り上げて解説します。ポイントは以下の3点です。
ポイント1:社債型の種類株式
上記は2024年10月に発行されました。通常の社債には期限がありますが、「ソフトバンク株式会社 第2回社債型種類株式」は形式的には種類株式であり、期限がありません。
ただし、「発行から5年後以降、会社が発行価格相当額で取得可能」とすることで、発行から5年後以降に発行体のソフトバンクが投資家の保有する社債を発行価格相当額で取得可能としています。なおソフトバンクは、固定配当が終了する2030年3月31日までに現金対価で取得(コール)されることを(投資家が)期待していることは充分に理解しています、とも発表済みです。
ポイント2:金利
「ソフトバンク株式会社 第2回社債型種類株式」は厳密には株式であり、金利は発生しません。金利相当の金額を配当としており、投資家は配当により実質的な金利収入が得られます。
実質的な金利について、2030年3月31日までは固定配当年率3.200%、としています。このため年率3.2%相当の利息が得られる実質的な社債です。金利となる配当は2030年4月以降に「基準金利+2.960%」となります(2050年4月1日以降は「基準金利+3.710%」)。
発行体のソフトバンクはその際の金利情勢にもよりますが、2030年4月1日以降は金利の支払い負担が重くなります。発行から10年目以降は実質的な金利負担が上昇する可能性が高く(新規で同様の社債型種類株式の発行する方が利払いは軽くなる可能性が高い)、少なくとも10年を超える前に、発行体であるソフトバンクが発行価格相当額で買い取りを行う可能性が高いです。
また発行体は5年目以降に買い取りが可能となるため、本種類株式の投資期間は最大の期限は10年、短い場合は5年となります。利上げが進む足元の国内金利情勢もあり10年を超えて買い取りを行わない可能性は低いと考えられますが、5年目以降どのタイミングでソフトバンクが買い取りを行うかは、金利情勢及びソフトバンクの財務戦略次第です。
ポイント3:格付け
「ソフトバンク株式会社 第2回社債型種類株式」は格付け会社から以下の格付を取得しています。
A-:株式会社格付投資情報センター(R&I)
A:株式会社日本格付研究所
2社からA以上の格付を取得しており信用力の高い格付となっています。
なお、格付の定義(R&I参照)は以下の通りです。
格付け | 内容 |
---|---|
AAA | 信用力は最も高く、多くの優れた要素がある。 |
AA | 信用力は極めて高く、優れた要素がある。 |
A | 信用力は高く、部分的に優れた要素がある。 |
BBB | 信用力は十分であるが、将来環境が大きく変化する場合、注意すべき要素がある。 |
BB | 信用力は当面問題ないが、将来環境が変化する場合、十分注意すべき要素がある。 |
B | 信用力は当面問題ないが、将来環境が変化する場合、十分注意すべき要素がある。 |
CCC | 信用力に重大な問題があり、金融債務が不履行に陥る懸念が強い。 |
CC | 発行体のすべての金融債務が不履行に陥る懸念が強い。 |
D | 発行体のすべての金融債務が不履行に陥っていると株式会社格付投資情報センターが発行する格付。 |
※AA格からCCC格については、上位格に近いものにプラス、下位格に近いものにマイナスの表示をすることがある。プラス、マイナスも符号の一部。
格付けについては以下の記事でも詳しく説明しています。
ソフトバンクグループ及びソフトバンクで個人向けに発行された債券
ソフトバンクグループ及びソフトバンクがこれまでに個人向けに発行を行った債券(社債)は以下の2つです。直近で発行された普通社債の金利は、ソフトバンクグループ3.15%に対しソフトバンク1.810%であり、ソフトバンクグループが高い状態です。また、ソフトバンクは別途前述の「ソフトバンク株式会社社債型種類株式」を2本発行しています。
ソフトバンクグループ無担保社債(愛称、福岡ソフトバンクホークスボンド)
・第64回まで発行(第64回は利率3.15%、2024年12月発行、2031年12月償還の7年債の個人向け社債)
・A(株式会社日本格付研究所)
・2024年は59回(3月)、63回(5月)、64回(12月)の3回分が個人向け社債。
ソフトバンク無担保社債(愛称、ソフトバンクみらい創出ボンド)
・第27回まで発行(第27回は利率1.810%、2025目2月発行、2032年2月償還の7年債の個人情報保護)
・AA-(株式会社日本格付研究所)
・個人向けの「ソフトバンクみらい創出ボンド」の発行は年1回ペース
ソフトバンク社債は買うべきか、判断のポイントを説明
ソフトバンクのように、国内でコンスタントに個人向け社債を発行する企業はほとんどありません。このため個人投資家は、特に新規発行の社債に対する投資は実質的にソフトバンクに限られる状況にもあります。個人投資家の社債投資が実質的にはほぼソフトバンクに限られる状況下、実際にソフトバンク社債への投資を行うべきなのでしょうか?
ソフトバンク社債への投資検討時のポイントは、①莫大な借金を抱えるソフトバンクグループの借金返済の可能性、②格付けに対する金利の条件、③ソフトバンクに投資するなら株式に投資する選択肢、の3点を考慮する必要があります。
①莫大な借金を抱えるソフトバンクグループの借金返済の可能性
上場するソフトバンクグループは投資事業を手掛けており、多額の借金があります。同社グループは借金でレバレッジを掛けて投資を行い、成功して資産規模を大きくする、という繰り返しで大きくなった面が否定できません。
2024年3月期末時点でソフトバンクグループの負債総額は14兆円を超えています。莫大な含み益を持つアーム社の株式などを保有しており、株式売却により負債の返済は可能です。しかしソフトバンクグループの借金の多さは、特にオーナー系企業としては突出しています。
ソフトバンク及びソフトバンクGの社債に投資検討の際は、借入金金額の把握とその返済可能性を考慮する必要があります。
②格付けに対する金利の条件
個人投資家が国内で投資できる社債は実質的にソフトバンクに限られる状態です。その中で、ソフトバンクの社債も格付け機関から格付けを得ています。
同時期に発行されている、国内企業の同じ年限の社債と格付けや金利を比較することで、ソフトバンク関連社債が投資家にとって不利か有利か判断が可能です。
同じ年限で同じ格付けの社債と比べ、ソフトバンクの社債の金利が大幅に低い場合は、個人投資家の不利な条件となっている可能性が否定できません。実質的に個人投資家が投資できる社債はソフトバンクに限られているとはいえ、同様の内容の社債に比べ大きく条件が劣る場合は、投資の見送りが合理的な判断と言えるでしょう。
③ソフトバンクグループ及びソフトバンクに投資するなら株式に投資する選択肢
親会社のソフトバンクグループは投資事業を手掛けています。現在はAI事業に積極的な投資を行っており、2025年に入り米トランプ大統領に対し1000億ドル(約15.4兆円)の投資計画を明らかにしました。ソフトバンク孫代表はこれまでヤフー、アリババ、アームなどの多くの投資で成功を収めてきました。また、それとともに株価も大きく上昇しました。ソフトバンクに対する投資という観点では、ソフトバンクの社債に投資するよりも株式への投資が正攻法とも言え、投資パフォーマンスも高い可能性があります。
一方、携帯電話事業を手掛けるソフトバンクは国内の携帯電話事業が中心です。今後の急速な成長は望めない反面、配当重視の方針のため配当利回りは4%を超えています。携帯電話事業のソフトバンク発行の社債に投資を行うなら、配当利回りとの比較も重要です。社債の利回りが配当利回り以下の場合は、株式に投資するのも有力な選択肢です。
まとめ:ソフトバンクの社債への投資はその特徴とリスクを知った上で行うこと
国内社債市場は機関投資中心の市場であり、個人投資家向けにコンスタントに社債の発行を続けるソフトバンクは希有な存在です。ソフトバンクにより、個人投資家は社債への投資の選択肢がある状態でもあります。しかし社債といえどもリスクある金融商品です。ソフトバンク社債への投資を行う前には、その特徴やリスクを知ることが重要と言えるでしょう。
金融・投資ライター
大手証券グループ投資会社への勤務を経て、個人投資家・ライターに。株式関連、為替関連、資産運用関連を中心に執筆中。Yahoo!トップページに掲載実績あり。第一種証券外務員資格保有。
大手証券グループ投資会社への勤務を経て、個人投資家・ライターに。株式関連、為替関連、資産運用関連を中心に執筆中。Yahoo!トップページに掲載実績あり。第一種証券外務員資格保有。
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格付け(信用格付け)とは、取引をする際に参考にされる基準の一つで、取引の相手側の信用度を確認するために支払い能力や財務状況、安全性などを総合的にランク付けしたものである。アルファベットや数字で表されるのが一般的である。 (例)格付投資情報センター(https://www.r-i.co.jp/index.html) による発行体格付の定義 AAA:信用力は最も高く、多くの優れた要素がある。 AA:信用力は極めて高く、優れた要素がある。 A:信用力は高く、部分的に優れた要素がある。 BBB:信用力は十分であるが、将来環境が大きく変化する場合、注意すべき要素がある。 BB:信用力は当面問題ないが、将来環境が変化する場合、十分注意すべき要素がある。 B:信用力に問題があり、絶えず注意すべき要素がある。 CCC:発行体の金融債務が不履行に陥る懸念が強い。 CC:発行体の金融債務が不履行に陥っているか、その懸念が極めて強い。 C:発行体のすべての金融債務が不履行に陥っているとR&Iが判断する格付。
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